弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年6月14日

ショージとタカオ

司法

著者  井手 洋子  、 出版  文芸春秋
 
 布川事件で被告人とされた桜井昌司(ショージ)と杉山卓男(タカオ)の両氏について、仮釈放以来、ずっと映像をとり続け、ついに映画にまでした監督が書いた本です。
 私は、残念ながら映画はみていませんが、このお二人の話は直接聞いたことがあります。実は、二人とも私とまったく同世代なのです。でも、私が大学に入って東京で生活を始めた年の10月に逮捕され、それ以来、29年のながきにわたって獄中にいたのでした。そして、ついに1996年(平成8年)仮釈放されました。ときにタカオは50歳、ショージは49歳でした。女子高生のルーズソックスがブームだったころです。
そんなわけで、このお二人は見かけこそ中年のおじさんなのですが、その心は若者のままなのです。私がお二人の話を聞いたときも、見かけは私と同じでも、その心持ちはずいぶん若い気がしました。それはともかく二人コンビで何か悪いことをしたわけでもないのに、運命のいたずらで事件は二人の「共犯による犯行」とされてしまい、それぞれ「自白」して、相手を「まき込み」、それがずっとお互いのわだかまりの元になっていたのでした。
そして、そんな二人の歩みをずっと映像にとっていたというのですから偉いですよね。だけどそのとき、この監督(この本の著者です)はどうやってメシを食べていたのか(収入を得ていたのか)、いささか疑問も感じました。配偶者の稼ぎに頼っていたということでしょうか・・・・?
ショージは、刑務所の独房のなかで、毎日、腕立て伏せを100回、腹筋を50回していた。部厚い広辞苑を鉄アレイ代わりにつかって、腕を振る運動もしていた。
1987年7月に無期懲役が確定して、千葉刑務所に暮らすようになってからのことです。偉いですね。さすがですね。
そして、ショージは刑務所のなかで靴を縫う仕事で法務大臣賞をもらったのでした。逮捕される前は定職についていなかったショージは、この際、しっかり働いて誰にも負けない、日本一の靴の作り手になることを心の中で誓っていた。
ショージもタカオも長い刑務所生活のなかで心の支えになっていたのは手紙だという。たまにある面会ではない。
支援者からの手紙に写真を同封するのは一切ダメだというのを、「保護者」が写っているのはOKだということになった。
タカオは六法全書を入手し、舎房のなかで、日々研究した。
ちょっぴりぐれかかった20歳前後の若者2人を警察が目をつけ強盗殺人の犯人に仕立てあげ、「自白」させた事件です。そして、それを40年以上もかかって再審無罪にしたというのです。もちろん二人がもっとも大変だったと思いますが、それを支えた周囲の人たちもすごいですよね。そして、日の目を見る保障がないなかで映像をとりはじめたというのも、すごいです。
   無実の人が「自白」するなんて簡単なことだという実例です。ぜひ映画を見てみたいものです。
(2012年4月刊。1200円+税)

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