弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年5月23日

教育改革

社会

著者   藤田 英典 、 出版   岩波新書

 1997年に初版が出ていますので、少し古くなっていますが、読んでみると内容的には古さをまったく感じさせません。
 教育の適切性を高度で先端的な知識技術に対応することに矮小化するのは誤りである。早い段階から専門分化したり、先端的な知識技能の教育を重視すると、それは「能力の浪費」を招きかねない。
 公立中高一貫校は、少数の公立エリート校をつくるだけになるか、学校序列・学校間格差を中学段階にまで拡大し、受験競争の低年齢化を招き、教育機会の階層差を拡大し、さらには、生徒にも学校にも、今以上に難しい課題を押しつけることになりかねない。弊害の方がメリットよりはるかに大きいと考えられる。
 たとえば、一度形成されたネガティブな評価や関係がずっと続く可能性がある。それは「十二歳・選抜」の問題を引き起こし、小学校の教育にまで受験競争の圧力をもち込み、もう一方で、現在、高校で見られるような序列や格差を中学校段階にまで拡大することになりかねない。
 日本の学校は、教師が一体となって生徒指導・生活指導にあたることを基本としてきた。もちろん、それがどの学校でもうまく機能してきたということではないが、教師集団の連携・協力と、個々の教師が生徒の生活全般にかかわることが、学校経営の基本、教師の仕事の基本とされてきた。
 こうした伝統に批判があるのも事実だが、それが日本の学校の主要な特質の一つであることも事実である。そして、その基盤には、すべての教師が同じ資格で同じ機能を担って教育にたずさわっているという事実があった。
 ところが、今日の学校では教員は見事にタテに系列化させられ、フラットな教師集団はなくなってしまいました。まったく残念としか言いようがありません。
週5日制、そして公立中高一貫校の導入前に発刊された本です。いずれも非常に問題があると著者は指摘しています。多くの国民がそれを安易に受け入れてしまったのが残念でなりません。
(2007年4月刊。780円+税)

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