弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年4月 9日

人生の科学

人間

著者   デイヴィッド・ブルックス   、 出版   早川書房

 人間の意識と無意識との関係を明らかにした面白い本です。
人間が幸福になるうえでは無意識が重要な役割を果たす。人間の日々の行動は、無意識の世界で生じる愛情や嫌悪などの感情によって、かなりの部分が決められてしまう。 
人の感情の90%は、言葉以外の要素によって伝わる。話すときの態度、体の動きなども大切な要素だ。
 無意識は、決して心の中の暗闇の部分、未開の部分などではない。恐怖や痛みを隠しておく場所でもない。人と人がつながる場所、心と心がつながる場所である。無意識には、長い時間をかけて知恵が蓄積される。
 男性が美しいと感じる女性は、肌が美しく、唇がふっくらとしている。髪が長く、艶がある。左右の対称性が高く、口と顎、鼻と顎の間が離れていない。
 女性が男性を見るときに主として注目するのは、目である。とくに瞳の大きい男性には性的な魅力を感じる。また、大事なのは、左右の均整がとれていることである。
 女性は男性ほど、視覚によって性的欲望を喚起されることがない。女性一人で子どもを育てるのはまず不可能なので、授精だけでなく、その後も継続的に協力してくれるような男性を選ばざるをえない。
男性は金持ちであればあるほど、付き合う女性が若くなる傾向がある。また、女性は外見が美しいほど、付き合う男性の収入が多いという傾向がある。男性の収入の多寡は、配偶者が美しいかどうかで分かることが多い。うひゃーっ、そんなことまで分かるのですか・・・・。
 意思決定は、理性の仕事ではなく、実は感情の仕事なのだ。意思決定は、私たちの知らないところでなされ、私たちの意識には後で知らされる。
 感情がなくなると、人間は愚かな人生を歩むことになってしまう。極端な場合、彼らは反社会的な人間になってしまう。他人の心の痛みを推しはかることもできないから、平気で粗暴な振るまいをする。
 私たちが自分の気持ちを自覚するのは、情報処理がすべて完了したあとである。理性は感情があって初めて機能できるもの。むしろ感情に依存しているといってもいい。
 感情は、物事の自分にとっての価値を決める役割を果たす。理性はただ、感情によって高い価値を与えられたものを選択するだけだ。
 脳の指示は初めから一つに統一されているわけではなく、同時に複数の指示が出され、それが競合する。そして、競争に勝った指示に身体は従うことになる。
 人間は絶えず迷い、揺れ動く存在である。人間を人間たらしめているのは、実は無意識ではないか。無意識が洗練され、高度な能力を持ったことで、人間は人間になったのだ。
 無意識の思考は天然のもので、自由闊達だ。それに対し、意識的な思考は、一歩ずつしか前へ進めないし、いくつかのごく限られた事実や、限られた原理・法則に頼る傾向にある。無意識の思考は、枠にしばられることなく、連想によって自由に大きく広がっていく。
 幸運な子は、母親がその時々の気分を敏感に察知してくれる。抱き上げてほしいときは抱きあげてくれるし、下ろしてほしいときは下ろしてくれる。刺激がほしいときには、刺激を与えてくれ、そっとしてほしいときは、そっとしておいてくれる。そういうときを過ごすなかで、子どもたちは自分が「他者と対話する存在」であることを学んでいく。この世界は、絶え間ない他者との対話で成り立っていることを学ぶのだ。
 生まれて間もなく接した人たちの関係が良好なものでないときには、子どもは他者を極端に恐れるようになる。そして内にこもるか、極端に攻撃的になるのかのどちらかになってしまう。     
無意識は、意識に比べ複雑な問題の解決が得意である。選択肢や可変要素がさほど多くない問題なら、意識はうまく解決できる。だが、選択肢も可変要素も多数になってしまうような問題は、無意識の方がうまく解決できる。また、意識は構成要素が明確に分かるような問題ならうまく対処できるが、そうでない問題への対処は難しい。構造が曖昧な問題に関しては、無意識の方がうまく対処できる。
 人間と人間の一生について、さらに深く知ることができる本でした。
(2012年2月刊。2300円+税)

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