弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年3月20日

自己愛過剰社会

アメリカ

著者   ジーン・M・トウェンギ 、 出版   河出書房新社

 ナルシズムが米国文化を急速に侵している。現在、アメリカではナルシズムが流行病にまでなっている。
 深刻なのは、臨床的に障害と認められる自己愛性人格障害で、これも以前より増えている。アメリカでは、20代の10人に2人、全年齢の16人に1人が自己愛性人格障害と診断されたことがある。しかし、この衝撃的な数字は、氷山の一角にすぎない。
ナルシズムは自信に満ちた態度や健全な自負心のことではない。ナルシストは、ただ自信があるのではなく、自信過剰であり、単に自尊心の高い人とは違って、心の通った人間関係を大切にしない。
 ナルシズム流行病を理解するのが重要なのは、長期的に見ると、それが社会に害を及ぼすからである。ナルシズム流行病は、とりわけ女の子に大きい害を及ぼす。10代で豊胸手術を受ける子どもが1年間で55%も増えた。
アメリカ人は自己を賛美したい気持ちが度を超している。アメリカは自己賛美という「万能薬」を服用しすぎて、もはや傲慢とか自己中心などの深刻な副作用が現れている。自信をもとうと急ぐうちに、アメリカ文化は暗く不吉なものへの扉を開けてしまった。
 ナルシストとは、自分を褒めそやす人のこと。自分に酔いしれて誰とも交われなくなり、他者を傷つける。
自己愛性人格障害と診断されるには、誇大癖、共感の欠如、称賛への執着に関連した、長期的行動パターンを表す9つの診断基準のうち、最低5つに該当していることを要件とする。
 ナルシストは、心の奥底から自分を「すばらしい」と思っている。
いじめっ子に必要なのは、他者を尊重する気持ちである。
 ナルシストは、自分を実際よりも賢く美しいと思っている。
人に迷惑をかけるナルシストの行動は「健全」ではない。
ナルシストは物質主義で特権意識があり、侮辱されると攻撃的になり、親密な人間関係には興味がない。
アメリカ文化の中心的な価値観として自己賛美と競争がうまく組み合わさったために、競争に勝つには常に自分を第一に考えなくてはならないと多くの人が思っている。
ナルシストは勝つのが大好きだが、実際に勝者なれるのかというと、ほとんどの場面でそれほどうまくやっていない。
 自信過剰は裏目に出る。ナルシストは苦言を聞き入れたり、失敗から学んだりするのが、ひどく苦手だ。
 CEOにナルシスズム傾向が強いほど、会社の業績は不安定である。
ナルシストは目立つ個人プレーが得意だ。
何かを学ぼうとするときには、多少は自分ができないと思っているくらいいが良い。
子どもが親に従うのではなく、親が子どもに従っている現状がある。現在は多くの子どもが家庭内の決定事項に口を出す。
2008年の経済破綻は、根本的に自信過剰と強欲というナルシズムの二大症状によるところが大きい。高金利の魅力に目がくらんだ貸し手は、自信過剰から借り手が払いきれないほどの高額な住宅ローン契約を結ぶというリスクを負い、借り手は自信過剰からそのような物件をローンで買った。
 アメリカでは強迫性買い物障害の人が60万人いると推測されている。多くの家族が、そのために崩壊している。
 放漫な融資がなければ、買い物依存症は大幅に経るだろう。
 アメリカの消費者は、ただ政府にならっているだけだ。アメリカ政府は、9兆ドルを超す負債をかかえている。
 ナルシズム流行病が続けば、特権意識、虚栄、物質主義、反社会的行動、そして人間関係の不和が増すだろう。
 女子高生の4人に1人が、自分の全裸もしくは半裸の写真をインターネットや携帯電話で送信している。こうした写真は、えてして大勢の高校生に広がってしまう。
世界中で外見重視の風潮が強まっているのは、一つにはテレビの力が大きい。
 モノに執着する人は満足を知らず、すっきりした気分で過ごすことがない。もっとお金が欲しいと思うだけでも精神状態が不安定になる。
現在のテレビドラマは富裕層が活躍する物語だ。
 テレビでは金持ちの有名人の私生活が取り上げられる。
 助け合いは、社会のつながりを強くする接着剤で、特権意識は、その接着剤を溶かしてしまう。
アメリカ社会の現実を論じた本ですが、いずれ日本もこんな怖い状況になるのかと恐る恐るページをめくって読みすすめました。
(2011年12月刊。2800円+税)

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