弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年2月25日

春告げ坂

江戸時代

著者   安住 洋子 、 出版   新潮社

 小石川養生所を舞台とする物語です。読んでいる途中から心からじわーんと温まっていきます。読後感は小春日和のように穏やかな暖かさです。日だまりのぬくもりを感じます。うまいですねー、いいですねー・・・。ストーリーといい情景描写といい、えも言われない筋立ての運びで、胸にしっくり迫ります。
 小石川養生所で医師として働いている高橋淳之祐が主人公です。淳之祐自身が複雑な事情をかかえる家庭の出身です。幼いころに両親と死(離)別して、養子に入り、いまは医師となっています。養家では大切に育てられたのですが、心にわだかまりをもちながら成人しています。
小石川養生所には町医者にかかれない貧しい人や身寄りのない老人など、弱い立場に置かれている人々が入所しています。
 ところが、病人を世話する看護人の質はよくなく、看護中間(ちゅうげん)たちは看護に手を抜いては博打に遊び呆けているのです。そして、病人が無料で入所できるというのは建て前で、看護中間にいくらかの干肴(ほしざかな)と称する挨拶金をしはらわなければいけません。そして、小石川養生所には、次々にわけありの病人が運び込まれてくるのです。
 医師が終末医療センターのように看病すると、病人を死なせてしまったとして成績が悪くなります。治らない病人を、さっさと退所させてしまうと医師の成績は上がるのです。そんな矛盾をかかえて主人公は医師として悶々としてしまいます。
 ところが、救いもあります。この小石川養生所のなかで黙々と患者に寄り添い看護に精を出す人々もいるのです。
 人間はお互い弱い身なので、できることから助け合い支えあっていく必要があるし、それをしていると心も豊かになる。
それをじんわりと実感させてくれる時代小説なのです。
(2011年11月刊。1700円+税)

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