弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月25日

キリスト教とホロコースト

ドイツ

著者    モルデカイ・パルディール  、 出版   柏書房

 ヒトラーによるユダヤ人絶滅作戦が進行するなかで、自らの生命を賭してユダヤ人を救った人がいたのを知るのは本当に救いです。
 ホロコーストの時代、ナチからユダヤ人を救命するために自分の生命を賭した非ユダヤ人2万1000人以上が「正義の人」として栄誉をたたえられている。残念ながら、日本人はセンポチウネただ1人である。
 キリスト教の聖職者は、そのうち600人ほどです。本書は、その聖職者を主として紹介しています。
 ユダヤ教とキリスト教の関係は、まぎれもなく親密な性格を有している。そもそも、キリスト教の崇敬の主たる対象は、ユダヤ人に生まれユダヤの信仰を実践し、唯一かつ万物の造り主である神と同じ位格の神であり人であると考えられる一人の人物である。彼の直の弟子は皆ユダヤであったし、最初に彼の復活と再臨を信じたのは数千人の人々であった。
 彼の故郷ナザレにおいてのみ受け容れられなかったが、その行く先々で群衆は彼を追った。宗務当局は彼を逮捕しようとしたが、群衆の人気に押されて手を下せなかった。
 イエスについて、人々は好意的に受けとめるのが通例だった。
中世のカトリック神学者の一人であるトマス・マクィナスをはじめとする神学者たちはユダヤ人が教勢促進も挑発もせず、騒々しい戦いを避ける以外に何も望まなかったにもかかわらず、ユダヤ人を激しく非難し続けた。プロテスタントの偉大な改革者であるマルティン・ルターは、後期中世のもっとも悪質なユダヤ人迫害者の一人として突出している。うひゃあ、そうだったのですか、ちっとも知りませんでした。
 1933年1月、ヒトラーが権力を握ったとき、ドイツ全土にユダヤ人は52万人ほど、ベルリンに7割近い38万人がいた。ユダヤ人の多くはドイツ人の暮らしの中に完全に同化していた。
 ヒトラーは、自らの反キリスト教の見解を表明するのは注意深く、公衆の面前では教会の忠実な支援者という建て前を装った。
 推定で2万人のユダヤ人がドイツ国内で生きのびた。そのうちの1万5000人は地下生活に潜ることなく、非ユダヤ人配偶者との結婚によって保護された。推定5000人近くのユダヤ人が潜伏して生きのびた。
 ドイツでは、ほとんどのプロテスタント聖職者、とりわけルター派が1937年1月のヒトラーの権力掌握に際して、強い高揚感を表明した。
 フランスには30万人のユダヤ人がいて、パリには18万人いた。ビシー政府はドイツの圧力を待たずにユダヤ人を差別する法律を布告した。フランスの解放までに7万5000人以上のユダヤ人がドイツに引き渡された。フランス警察が、ドイツ軍以上に多くのユダヤ人を逮捕した事実は、フランスの名と民族的名声に汚点を残している。しかし、ユダヤ人を助けるため、カトリック司祭とプロテスタント牧師が共に連携して動いたことも事実である。フランスにおけるユダヤ人の生存率は、他の西側諸国に比べて相対的に高かった。
 1980年代のフランス映画『さよなら子どもたち』は私もみましたが、ユダヤ人の子どもたちを救おうとするフランスの取り組みが描かれています。
ゲシュタポは、ユダヤ人の所在の通報者には報奨金100から1000フランを約束していた。重要人物については5000フランだった。当時の平均月収は3000フランだったので。月収に匹敵するものだったが、人々は応じなかった。
イタリアのユダヤ人の80%はドイツ軍の占領時代を生きのびた。ファシストと呼ばれるムッソリーニ政府が1943年9月にドイツによって占領されるまでユダヤ人をナチスに引き渡すことがなかったことをはじめて知りました。イタリア人は、ナチの論理にしたがって、ユダヤ人として生まれたことだけを理由として人間の命を奪い取る気になれなかった。そのため、官僚的な口実や嘘をふくめ、想像しうる限りのありとあらゆる計略、逃げ口上を弄して、ドイツの要求に応じなかった。
 うへーっ、すっかりイタリア人を見直しましたよ。たいしたものです。
 イオニア海にあるザキントス島では、ドイツ人将校がやって来てユダヤ人の引き渡しを求めたとき、カトリックの主教がユダヤ人リストに自分の名前を目の前で書き加え、「あなたは私を逮捕できる。それで満足できないのなら、私もユダヤ人と共にガス室に直行するつもりだ」と宣言した。ドイツ軍将校はあっけにとられ、折れた。
 560頁もの大部な本です。キリスト教会がユダヤ人絶滅にいかに関与したのか、よく分かる本となっています。
 バチカンはユダヤ人絶滅策が進行していることを熟知していたにもかかわらず、公にホロコーストを非難することはなかった。しかし、イタリア全土のカトリック施設に数千人のユダヤ人をかくまっていた事実はある。
 ユダヤ人絶滅について、キリスト教会が全体として手をこまねいていたことは争いようのない事実です。しかし、そのなかでも、個々の聖職者は自分の生命と家族を危険にさらすことを承知しながらユダヤ人の救出にあたっていたのでした。その矛盾をどう考えたらいいのかを改めて考えてみました。
(2011年5月刊。4800円+税)

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