弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年6月24日

都知事

社会

著者    佐々木 信夫  、 出版   中公新書

 普通の知事がやっても東京は繁栄する。石原慎太郎が知事として特に優秀だという話はあまり聞かない。多くの高次中枢機能が集積する東京の立地条件、中央集権という体制が東京繁栄をもたらしている。石原知事が五輪招致で100億円を超えるカネを無駄にしても、銀行税によるカネ集めに失敗しても、東京都は決してつぶれない。都庁官僚に任せておけば、一定の行政水準は保たれる。ヒト、モノ、カネ、情報が集まる大都市東京は、集積が集積を呼ぶメカニズムのなかで栄えている。なーるほど、そういうことなんですね。まあ、首相も同じようなものなんでしょうね。
 現在、47都道府県知事の6割は官僚出身者で占められている。しかも、彼らは、かつてのような次官とか局長という功なり名を逃げた「上がり組」ではない。多くは課長クラスといった中堅官僚からの転身組である。彼らに期待されるのは仕事師としての役割だ。国から自立した政策と自己決定・自己責任による地域経営が求められている。ふむふむ、これは以前とは違いますね。
 都知事は職員17万人、予算12兆円という巨大都庁の経営者である。任期は4年間と安定し、都知事は首相や大臣なみに扱われ、要人警護のSP(2人)も付く。都知事は議会への予算や法案の提出権をもち、議会に対して圧倒的に優位な立場にある。
 都知事は年間2018万円の給与をもらい、1期終了ごとに4700万円の退職金が支給される。ところが、石原慎太郎は週に2、3日しか都庁に出勤していないと言われ、パーティーや宴席にもほとんど出ない。
 都庁職員には、「学歴ではなく学力で」という、脱学歴の伝統がある。誰でも、能力と実績さえあれば管理職になれるのが、都庁の人事政策の特徴と伝統である。
 都庁は、多様な大学の出身者が局長となっている。最近では管理職を志望しない若手職員が増えている。石原慎太郎によるワンマンな管理職の使い方も影響して、論争を好まない組織風土ができあがり、上司の指揮命令に忠実な者のみが出世する人事が管理職志望を下げている。
 一般会計だけでも6兆3千億円というのは、フィンランドやチェコの国家予算規模に相当し、ニューヨークの予算規模とほぼ同じである。
 大統領制の都知事は、実質的に予算編成権と執行権を一手に握っている。しかも、都が国の財源収入の6~7割は固有財源(地方税)である。国の交付税に依存せず、ひもつき補助金も少ない都の場合、ほかの府県知事が1割足らずの裁量しかないのに対して、都知事の財政裁量は3割近い。
 石原慎太郎の政治手法は小泉純一郎に類似している。敵(守旧派)をつくりあげ、敵を倒すものが正義(改革派)であるという論法だ。石原は国の官僚制を目の仇として、「東京が日本を変える」と対決色を強め、独自の政策を展開した。時には思いつき、独善と言われながら有権者の心をつかむのはうまい。
 石原都政は総じて弱肉強食の論理を是とする大都市経営である。福祉・医療の減量化、民営化はその一面だ。老人福祉手当は4分の1近くまで減額。70歳以上の6割が利用していた都営バスの無料パスも全面有料化され、年間7万人も利用者が減った。老人医療費助成も対象者の見直しで4分の1、10万7000人が対象外となった。病院の統廃合で多摩地区には医療不安が広がり、周産期医療の問題や医師不安など、福祉医療分野の不完全さが目立つ。
 総じて福祉、医療、文化、食育など、石原都政の下で生活者に関わりの深い生活都市の面は停滞し、大都市の高層化や経済活性化など経済都市としての基盤整理はすすんだ。
 うへーっ、これってまさに弱者を切り捨て、大企業と大金持ちに奉仕する都政になっているということですよね。そんな政治をしてきた石原慎太郎が先日の選挙では大差で再選されました。信じられませんね。
  (2011年1月刊。780円+税)

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