弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年5月24日

弁護士を生きるパートⅡ

司法

著者    北海道弁護士会連合会 、 出版   民事法研究会

お待たせしました。弁護士を生きるパートⅠは福岡県弁護士会の編集によるものですが、今度のパートⅡは北海道の弁護士たちが登場します。南と北が出そろいましたので、次は中部か近畿あたりがいいですね。
北海道だけあって、南の九州ではとても考えられない弁護士像も紹介されています。
まず、トップバッターは、半農半弁で暮らす女性弁護士です。大阪から移り住み、馬を飼って乗馬を楽しんでいる弁護士がいることは知っていましたが、新聞記者をやめて農業で生きる決意した夫とともに北海道に移り住み、1年の半分だけ弁護士として活動している女性の弁護士がいるなんて、驚きました。しかも、さすが北海道の冬は厳しくて農作業が出来ないため、弁護士業務は11月から雪の溶ける4月までの半年間のみ、5月から10月までは弁護士業務をほとんどお休みしているというのです。依頼者にも、そのことをあらかじめ了解してもらって受任しているそうです。だから、法律事務所の看板も依頼者にしかわからないほど小さい。なーるほど、ですね。ただし、「のんびりした半農半弁生活」とはまったくかけ離れていて、気軽に進める気にはなれないとのこと。まあ、それでも、広い北海道の大地の一角で有機栽培に挑戦し、ファームレストランを維持するとは、たいしたものです。
二番手に登場してくる佐々木秀典弁護士は私が駆け出しの弁護士のころに東京で青法協の議長として活躍していました。故郷の旭川に戻って自民党代議士だった父親の後を継いで社会党の代議士になり、国会でも活躍しました。金大中氏が韓国のKCIAに東京から拉致されて殺害されようとしたとき、人身保護法による救済を東京地裁に申立したとのこと。最高裁は同法22条による自主処理権限で韓国大使館に金大中氏の存否を照会する処置をとった。このことは、アメリカの圧力とあわせて金大中氏の生命を救ったのです。のちに大統領になった金大中氏からとても感謝されたというのも当然ですね。
三番手の中村元弥弁護士は元裁判官。『こんな日弁連にだれがした?』という本を意識して、「左翼系」ではない元「世間知らずの判事補」として司法の現状を批判的に解説しているのも面白いところです。私自身は、そもそも「左翼系」とかというレッテルを貼って弁護士会を面白おかしく書こうとする『こんな・・・』の視点自体が根本的な弱点をもっていると考えています。
以下、いろんな分野における弁護士の活動が紹介されているのですが、福岡とは違って本人の書きおろしのため、学術的かもしれませんが、読みものとしての面白さに欠けるという難点があります。やはり、福岡のように本人に若手弁護士の前で語らせ、その面白さをキープしつつ、編集者のコンセプトをふまえて本人が手を入れていくという作業にしたら、もっと読みやすい本になったのではないかと思いました。
(2011年3月刊。2200円+税)

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