弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年3月29日

企業法務と組織内弁護士の実務

司法

著者  東弁研修センター委員会、    出版  ぎょうせい
 
 私は、分類されるとマチ弁護士になるのでしょう。いわゆる労働弁護士(労弁)を目ざしたような気もしますが、労働事件はほとんど依頼されることがありませんでしたので、労弁ではありません。草の根民主主義を大切にしたいと考えてきましたから、自分としては民主的弁護士(民弁)と言いたいのですが、民弁といっても韓国と違って定着した呼び方ではありませんので、しっくりきません。仕事の大半は多重債務をふくめた消費者被害を扱うものですから、やっぱりマチ弁としか言いようがありません。だから、企業法務なんか、あんたには関係ないでしょうと言われると、実はそうではないのです。マチ弁は、実のところ、零細な中小企業を主たる依頼者としています。だから、いわゆる企業法務ではないのですが、スケールを何桁も小さくした企業法務を扱うのは主要な日常業務の一つなのです。その意味で、この本は私にとっても大変勉強になりました。
 契約書の作成と審査にあたっての大切な視点として、2つあげられる。一つは、契約書において依頼者の利益が確保されていること。二つは、リスクの回避がきちんとできること。契約条項が明確になっていることは第三者によって検討が可能であること、そして、当事者間による契約条項の内容の共通認識である。
 契約条項において、文章で権利・義務の主体を表示するときには、受動態ではなくて、できるだけ能動態をつかうことが重要である。
 リスクの回避には3段階ある。まず、リスクを指摘する。そして、次に、そのリスクを取れるリスクか取れないリスクかを評価する。さらに、そのまま受けとめるか、軽減するか対応する。この指摘、評価、対応という3段階をふんでリスクを検討する。
 法律事務所の弁護士と企業内の弁護士との違いの一番大きいのは、リスク評価に対する対応だ。企業内弁護士は、企業の一員として、ある程度はビジネスに関与して責任を負う。だから、リスクを指摘するだけではなく、この中で取れるリスク、取れないリスクをイニシアチブをもって指摘する。リスクがあるからNOというのは簡単だが、それはダメ。リスク回避の観点から、ビジネスを動かすためにはどうしたらいいのかを考えていく必要がある。企業法務部は、建設的な提言をする必要がある。そのためには、ビジネスに対する共感が大切だ。
 法務部のコメントは、こうすればビジネスは動きますよと、ビジネス部門を法的に武装してあげるものでなければいけない。ビジネスに対する共感を持ち、ビジネスを円滑に進め、そしてそこから発生する法的なリスクをいかに回避するか、ビジネス部内の人たちと協力し合うことが必要である。
 マスコミとの対応では、マスコミに迎合せよということではない。正しくマスコミをリードするのも危機管理の一つなのだ。
 危機管理の実務は三つある。一つは、被害を最小限に食い止める。二つは、自浄作用を働かせる。三つは、プロセスを社会に示す。説明責任は会社内だけでなく、社会に示して完結するもの。
 不祥事は厳罰に処するというポリシーを経営者が日ごろ口にしていると、現場はまず隠そうとする。そういう企業文化が必ず生まれる。そうではなくて、不祥事があったら、いち早く報告させる。過ちを速く報告したら、1点加点してやるくらいの組織体制が必要だ。もともと大した不祥事でないものを、役員の事後対応のまずさから大きいニュースバリューのものに育てあげていくことがある。それが、役員の善管注意義弱違反である。
 拙速な公表は、たしかにまずい。しかし、分かっている事実と分かっていない事実とをきちんと区別してプレス・リリースするのはとても大切なこと。これは鉄則である。取締役会で法務部が議論をリードするのは危険なこと。
 企業が自浄作用を働かさないと外圧がかかる。外圧とはマスコミ、捜査当局、監督当局そして行政だ。危機管理コンサルタントは、おじぎの仕方、派手なネクタイはいけない、金ピカの腕時計ははずせとか、小手先のテクニックを使いたがる。しかし、結局のところ、会社がどういう姿勢で、何をしてきたかが勝負どころだ。
 マスコミは、相手が期待する以上の情報を提供しないと、何日も記事を書きつづける。
 こんな研修だったら、還暦を過ぎた私でも、今からでも受けてみたいなと思うほど、内容の濃い本でした。
(2011年1月刊。2095円+税)

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