弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年3月25日

「ふたつの嘘」

社会

著者  諸永 祐司 、  出版  講談社 
 
 毎日新聞記者(西山太吉氏)が外務省の機密電信文を入手し、それをもとに国会で社会党の議員が政府を追及した。沖縄返還をめぐって、日本政府がアメリカと重大な密約を結んでいたことを暴露する内容だった。ところが、やがて問題すりかえられた。西山記者が入手した情報が外務省の女性事務官との男女関係によるそそのかしにもとづくものだったことにマスコミが焦点をあて、本当の問題点だった政府間の密約問題が話題にのぼらなくなった。このときのマスコミって、無責任報道の典型ですよね。
作家の村上春樹の受賞スピーチが紹介されています。モノカキのはしくれとして、私はなるほどそのとおりだと思いました。
小説家は上手な嘘をつくことを職としている。ただし、小説家のつく嘘は、嘘をつくことが道義的に非難されない。むしろ、巧妙な大きな嘘をつけばつくほど、小説家は人々から賛辞を送られ、高い評価を受ける。小説家は、うまい嘘、つまり本当のように見える虚構を創り出すことによって真実を別の場所に引っ張り出し、その姿に別の光を当てることができる。
なるほど、なるほど。まさにスピーチのとおりです。
西山記者は毎日新聞を辞め、北九州で隠遁生活を過ごす。妻との離婚の危機、そして、息子たちとの葛藤。さらには競艇への乗めりこみ。うつうつとした生活がずっと続きます。
ところが、ついにアメリカ公文書館で密約を掘り起こした日本の学者がいて、それが日本マスコミで大々的に報道されました。それを受けるかのように、日本の裁判所が密約の開示を政府に命じる判決を下したのです。ついに、西山記者の主張が裁判所でも認められた一瞬でした。すごいですね。苦節40年近くを経て、いったん不当におとしめられた職業人が不死鳥のごとくよみがえったのです・・・・。
 それにしても、こんな大切なことで日本国民を裏切る政府なんて許せないことですよね。いつだってアメリカ政府言いなりの菅政権に対しては、いいかげんにしてよ、あんたも若いころはアンチ・アメリカを叫んでいたんじゃないのと言って、お尻ペンペンしてやりたくなりました。

(2010年12月刊。1800円+税)
 震災後に続いている福島原発の深刻な事態について、政府は本当のことを国民に知らせていないのではないかと言われています。真実を知らせると国民がパニックを起こして収拾つかなくなるという考えにもとづくものです。でも、真相が隠されていると国民が疑う状況では、かえって無用のパニックが発生しかねません。政府は「直ちに健康被害は出ない」「落ち着いて行動してください」と言うだけではなく出来る限り正確な情報を国民に知らせるべきではないでしょうか。そうなることによって、かえって政府発表への依頼性が増し、国民は冷静に対応できると思います。
 それにしても大震災発生後2週間たっても原発災害の異常事態が続くのはあまりのことです。政府は日本の科学者・技術力のすべてをそそぎ込んで安全を確保してください。お願いします。
 我が家のチューリップが咲きはじめました。きのう数えたら15本のチューリップが咲かせています。なぜか赤い花ばかりです。チューリップ畑を眺めて、原発による不安の心を少しだけ落ち着かせています。

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