弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年9月 8日

アメリカと戦争

アメリカ

 著者 ケネス・Jヘイガン、イアン・Jビッカートン、 大月書店 出版 
 
 日本語版序文に次のように書かれています。
 海外での軍事的冒険主義へのさらなる加担を拒否した日本人の人々の思慮深さは、われわれを非常に勇気づけている。
 ええーっ、これって日本人をほめ過ぎでしょう。正直いって、私はそう思いました。でも、この本の著者は、なんとアメリカ合衆国海軍士官学校名誉教授であり、海軍大学校の教授なのです。決して冗談とか茶化して言っているのではありません。
 戦争は、あなたが望むときに始めることができる。しかし、戦争は、あなたの望みどおりには終わらない。なんと、これは、かの有名なマキャヴェリの言葉なのです。そして、アメリカの始めた戦争が、ベトナムでもイラクでも、まったくこのマキャヴェリの言葉どおりに推移していることが、この本のなかで明らかにされていくのです。大変明快な主張です。
 さらに、アナン国連事務総長(当時)の言葉も紹介されています。
 戦争とは、政治的手腕や想像力の破壊的失敗、すなわち享受すべき平和的政治手段を選択肢から強制的に排除するものにほかならない。
 なーるほど、そうなんですね・・・・。
 アメリカ合衆国についての神話の一つは、平和的な民主主義国家であるアメリカ合衆国が軽率かつ不正に戦争に突入したことは一度もないというもの。しかし、アメリカ人は、国益上、必要であれば、武力行使をいとわないことを示してきた。
 戦争とは、国家の指導者の行う最も重大な決定であるのみならず、まったく先の予測のできない冒険的なものである。戦闘が思いどおりに終結する確実な見込みは存在しない。アメリカ軍は、独立以来、これまで海外で250以上もの軍事行動を起こしてきた。すなわち、一年に一度以上、戦争を遂行してきた。
 18世紀のアメリカ独立戦争のとき、13植民地の構成員250万人のうち、半数近くがイギリス王国に忠誠を示していた。実際に武器をとった推定6万人の王党派と、ほとんどすべての植民地で求められた、革命派の大義に対する忠誠を拒絶した人々は捕えられ、強制収容所に監禁され、厳しく罰され、追放されたあげく、土地や財産をすべて没収された。かれらは、戦争が終わったとき、イギリス領カナダへ逃げ去った。
 19世紀の南北戦争は、戦争を率いた指導者の見通しをはるかに凌駕して、まったく意図していなかった結果を生み出した。南北戦争における戦死者数は、おそらくアメリカ合衆国が遂行したあらゆる戦争の戦死者を合計した統数を超越している。1860年のアメリカ総人口の2%、60万人が戦死した。
 南北戦争はイデオロギー戦争でもあった。両軍の志願兵は、自分たちは自由のために戦っていると信じていた。この信念こそが、戦争を残虐なものし、勝利を達成するまで戦争終結を遅らせることになった。戦争の長期化には、予期されたことでも、意図されたことでも、まったくなかった。当初は誰も、この戦争から徹底的な総力戦と化し、これほどまでに長期化するとは考えていなかった。
 南北戦争は、アメリカ合衆国が軍事的に無限の潜在力をもつ国家であるという信念を増長させ、美化することになった。大統領として、また軍の最高司令官として、リンカーンはかつてないほど直接的に戦争遂行上の役割を一個人として担うことになった。
 第一次世界大戦において、アメリカ軍の参戦にはわずか19ヶ月間にすぎなかったが、死者11万6000人、負傷者23万4000人をふくむ総計36万人という犠牲者を出した。
 アメリカ合衆国にとって、第一次世界大戦の結果は、国内においても全面的に期待はずれのものだった。
 第二次世界大戦の圧倒的ないとせざる結果とは、この戦争が平和とはいえない一つの平和を生み出したことである。戦争は終結せず、ただ戦闘が終了しただけだった。
 第二次世界大戦から出現したのが、米ソ両国が代理国家に戦争と死を肩代わりさせて世界中でおこなった数え切れない局地戦を生み出す、核軍拡大競争によって膠着した45年間にわたる冷戦だった。原爆を投下した目的の一つがソ連を抑止するための威嚇だったなら、それは惨めにも失敗したのだ。
 冷戦は、武装した大規模な戦闘という意味での戦争ではなかった。冷戦とは、幻想の戦争であり、真実をあいまいにするような常套句の応酬をともなうイデオロギー対立だった。朝鮮戦争は、全面戦争というより、公然と布告されなかったものの、「警察行動」にほかならなかった。
 朝鮮戦争のもっとも意図せざる劇的な結果とは、アメリカ合衆国が決定的な勝利を手にすることができなかったことである。
ベトナム戦争の第一の、そしてもっとも明白な意図せざる結果は、アメリカ合衆国にとっての恥辱にみちた敗北にほかならない。ベトナム戦争は、この大統領を思いがけず破滅させただけでなく、ジョンソン大統領の「貧困との戦い」や「偉大な社会」という抗争にも終止符をうつことになった。巨額の戦費が引きおこしたインフレ、戦争中に起こった行政権力の乱用や市民的自由の侵害行為は、1960年代後半から70年代初頭の全米に、分裂、暴力的抗議活動、不安を生み出した。
 ベトナム戦争の残虐さは、国内における戦争への支持を損なうことになり、1965年には、早くも学生が中心の強力な反戦抗議運動が登場することになった。
著者は、最後に次のように力強く呼びかけています。
 いまこそ、大幅に軍事費を削減し、武力行使よりもむしろ真剣な交渉に従事し、荒廃した社会的・経済的インフラの再建を図るべきなのだ。戦争においてアメリカ合衆国が生み出した意図せざる結果を調査することによって、戦争はおろかであり、無駄であることを示した。ひとたび、この見解が認められたら、戦争以外の手段が無限に可能となる。
 まことにそのとおりです。本当に心からの拍手を送ります。すばらしい教訓と呼びかけにみちあふれた本です。じっくり読む価値のある本として、おすすめします。
(2010年6月刊。2800円+税)

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