弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年8月29日

これからの「正義」の話をしよう

アメリカ

著者:マイケル・サンデル、出版社:早川書房

 アメリカという国は、実にふところの奥深い国だと思わせる本です。天下のハーバード大学で史上最多の学生を集めている講義が再現された内容の本です。私はみていませんが、NHK教育テレビで連続放映され、日本でも話題になっているそうです。
 ことは、きわめて重大な「正義」を扱っています。とっつき易いのですが、その答えとなると、とても難しく、つい、うーんと腕を組んで、うなってしまいました。
 たとえば、こうです。アメリカの大企業のCEOは、平均的な労働者の344倍の報酬を手にした。1980年には、その差は42倍だった。この格差は許されるのか?
 アメリカの経営者は、ヨーロッパの同業者の2倍、日本の9倍の価値があるのだろうか?
 いま、日本の経営者(日本経団連)は、その格差を小さくしようとしています。アメリカ並みに労働者と格差を何十倍ではなく、何百倍にしようと考えています。その具体的なあらわれが、消費税10%引き上げであり、法人税率の引き下げ(40%を20%へ、半減)です。ますます格差をひどくしようなんて、とんでもありませんよね。
 アメリカの金持ち上位1%が国中の富の3分の1以上を保有し、その額は下位90%の世帯の資産を合計した額より多い。アメリカの上位10%の世帯が全所得の42%を手にし、全資産の71%を保有している。アメリカの経済的不平等は、ほかの民主主義国よりも、かなり大きい。アメリカン・ドリームなんて、夢のまた夢、幻想でしかありません。
 アメリカは、現在、徴兵制ではなく、志願制である。イラクのような戦地に勤務する新兵の出身は、低所得から中所得者層の多い地域がほとんどである。貧乏人は兵隊になって戦地へ行き、死んでこいというわけです。
 アメリカ社会でもっとも恵まれている層の若者は兵役に就くことを選ばない。
 プリンストン大学の卒業生は、1956年には750人のうち過半数の450人が兵役に就いた。しかし、2006年には卒業生1108人のうち、軍に入ったのは、わずか9人だった。ほかのエリート大学も同じ。連邦議会の議員のうち、息子や娘が軍隊にいるのは、わずか2%のみ。
 2004年、ニューヨーク州の志願兵の70%が黒人かヒスパニックで、低所得者層の多い地域の出身だった。最高4万ドルという入隊一時金や教育を受けられるときの特典は、きわめて魅力が大きい。
 いくつもある考えるべき課題を明らかにしてくれる、実に哲学的な本です。
(2010年6月刊。2300円+税)

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