弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年7月 9日

憚りながら

社会

著者 後藤 忠政 、宝島社 出版 
 
著者は山口組のなかでも武闘派で鳴らした後藤組の元組長です。今は引退しているとのこと。 この本を読むと、日本っていう国は暴力団があらゆる分野に根付いていることをつくづく実感させられます。本当に残念というか、悲しい現実です。そして、ヤクザの生き方の「正当性」をたたえる(自画自賛する)ところは、政治家や財界人の現実(その無責任さ、あまりの利己主義、金もうけに目がくらんでいる)をふまえると、ついそうなんだよねと、うなずかざるをえません。
 たとえば、日本経団連の前会長の御手洗氏を著者は強烈に批判していますが、私もまったくそのとおりだと思います。
 御手洗だかオテアライだか知らんけど、あんな人物でも経団連会長ができたんだから、層が薄いというか、底が知れているな。経団連会長といえば日本のトップだ。昔は「財界総理」だなんて呼ばれてたんだよ。それが自分のダチ公に散々、儲けさせといて、そいつが脱税でパクられたら、知らぬ存ぜぬだものな。
 この御手洗氏も“チンピラ”だ。法に触れなきゃ、何やってもいいのかよって話だ。別にキャノンの会長まで辞めろとは言わんよ。それは 株主が決めればいいんだから。けど、少なくとも経団連の会長だけは辞めんといかんかったんじゃないのか。経団連って、日本の財界を代表する、そのトップなんだから、これは道義の問題だ。こんなことを、ヤクザやってた者から意見されるな、という話だ。こんな人間が経団連の会長をやってたんだから、日本の経済がグダグダになるのもしょうがないわ。
いやはや、胸のすくほど痛快な指摘です。アメリカで少しはまともな合理主義精神を身につけて帰ってきたかと思うと、拝金主義の体現者として労働者の使い捨てだけをすすめるという情けない人物でしたね。
著者の出身は富士宮市ですから、創価学会とも密接な関わりを持っていました。山崎正友弁護士(故人)や藤井富太郎元公明党最高顧問と組んで暗躍した状況が語られています。
自分の手下に次から次へと居直られるような池田大作という男は、たいした人物じゃないってことだ。他人様から、とうていほめられるような人物じゃないから、自分で自分をほめる本をせっせとつくっては、業界の信者に買わせてる。ああいう見苦しい生き方もないもんだ。
こうやってバッサリ切り捨てています。
 著者はサラ金の武富士ともつきあいがありました。その株式上場を助けてやったというのです。ところが、そのお礼に武富士は「鼻くそ」みたいなカネを持ってきただけで、あとは知らんぷりだった。それで「ふざけんな」という話になった。
 いやはや、なんということでしょう。武富士は上場できて1000億円以上も儲けたというのです。このほか、株式市場でも暗躍し、大儲けをしたようです。さらには佐藤道夫参議院議員(元高検の検事長でした)の当選に力を貸し、本人からえらく感謝されたという話もあります。これって本当なんでしょうかね・・・・。
 政界、経済界、芸能界あらゆるところに「日本最強」の暴力団の親分として顔がきいていたことがよくよく分かり、つくづく嫌になってしまいます。
 そして、東京銀座で毎晩のように飲み歩いていたというのです。もっとも、そのおかげで肝炎となり肝臓癌となります。ところが、アメリカで最新式の肝移植を受けて著者は生き延びるのでした。なんともはや、すごい生命力の人物です。そして、暴力団を辞めて、得度したのでした。これまた、すごい転身です。決断力があります。
 まあ、言ってみればヤクザ賛美のような本なのですが、社会批判がかなりまともで、同感できるところが多々あるところが悔しい気すらしてしまいました。久留米の富永孝太朗弁護士に面白い本があると勧められて読んだ本です。ありがとうございました。
 
(2010年6月刊。1429円+税)
 法人税を減税しても、大企業は海外に投資してしまうので、日本の経済回復にはつながらないと指摘する人が多いですね。ということは、消費税10%で日本経済はますます冷え込むでしょう。が、法人減税も日本の国を強くすることはないということです。
 それにしても、消費税とあわせて沖縄の普天間基地の問題、日米合意は守られるべきものなのかというのも重要な争点だったはずですが、民主党と自民党の政策が一致したためか、マスコミはほとんど取り上げません。本当にそんなことでいいのでしょうか。民・自以外にも政党はありますよね。マスコミは政策選択の可能性を奪ってはいけないと思います。

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