弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年6月26日

タケ子 Ⅱ

社会

 著者 稲光 宏子、 新日本出版社 出版 
 
私が弁護士になる前のことです。1973年(昭和48年)6月、私は司法修習生でした。大阪で参議院の補欠選挙があり、自供対決の一騎打ちで共産党の女医さん(50歳)が自民党の資本家(製薬会社の社長)候補を打ち負かしたのです。しかも、劇的な逆転勝利でした。
これを知って、ずっとずっと長く続き、不敗と思われていた自民党政権も変えることができるんだとまだ20歳代だった若き私の熱い血が騒ぎました。あれから40年たち、自民党政権が本格的に退場し、民主党政権の迷走ぶりはともかくとして、日本の政治だって国民が選挙によって変えることができるという確信を持てたことは大変すばらしいことだと考えています。
それはともかくとして、この本は40年も前に自共対決で共産党がなぜ自民党に勝てたのか、勝った女医さんとはどんな人だったのか、等身大で明らかにしています。とても読みごたえのある本で、青森への出張の帰りの機内で私は一心に読み耽りました。
ドクタータケ子は大阪の下町(姫島)で地元の人々に支えられて診察所を開設します。まだ20代でした。ともかく、昼となく夜となく診察し、その合い間には自転車で患者宅へ往診に出かけていくのです。そして、大水害が起きると、小船に乗って被災者のなかの患者を診てまわります。いやはや、その行動力や、馬力のすさまじさに圧倒されてしまいます。若いって、やっぱり素晴らしいですね。還暦を過ぎて、つくづくそう思います。
そして、推されて市会議員に立候補します。地元の圧倒的な支持をもとに、たちまち当選。32歳の市会議員が誕生しました。医者と「二足のわらじを履く」生活が始まったのでした。
市会議員になってからも、市民とともに要求実現の運動にとりくみます。旧来の政治家のように、「オレに、私にまかせておきなさい」というのではありません。これだったら、財界本位の自民党候補者にたしかに一騎うちで勝てたんだろうなと納得できました。
読んで元気と勇気の湧いてくる本です。若返ります。少なくとも気分だけは……。 
(2010年4月刊。1800円+税)

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