弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年5月25日

民衆の北朝鮮

朝鮮

著者:アンドレイ・ランコフ、出版社:花伝社

 知られざる隣人、北朝鮮の実情を教えてくれる貴重な本です。
 著者はロシア人ですが、金日成総合大学に学んだことがあり、北朝鮮の内情を実によく知っています。2段組みで400頁ほどの本です。とても奥深い内容となっています。一読を強くおすすめします。
 とりわけ、北朝鮮の侵攻に脅威を感じている人には、ぴったりの本です。とてもとても、それどころではないという、この国の実情が明らかにされています。
 著者が初めて北朝鮮に行ったのは1984年9月のこと。金日成総合大学に留学生として出かけたのです。
 北朝鮮は、非効率、残忍さ、とりわけ抑圧的独裁国家を具現化したものであった。
 もっとも抑圧的な社会政治的な状況であっても、大多数の人々は普通の生活をよくしようとし、一般的にはそうやっていけるという単純な真実を理解した。
 北朝鮮は、人口2330万人、一人あたりのGDPは1800ドル。モザンビークの人口は2090万人、一人あたりのGDPは1500ドル。小さくて、ひどく遅れた独裁国家であり、モザンビークに近い。
 北朝鮮が奇妙にも目立つのは、2つの理由がある。一つは、北朝鮮の外交官が並外れた手腕で演じている核の脅迫のゲーム。二つ目は、北朝鮮が世界の最後の頑固な共産主義(スターリン主義)政権として生き残っていること。
 金王朝は、北朝鮮を60年以上も支配してきた。少なくとも二世代が、完全なスターリン主義社会の中で成長した。
 北朝鮮の人々は、12歳になると、金日成バッジを外出するときには必ず着用しなければならない。北朝鮮の人々は、毎日、2~4時間も、生活総括と呼ぶ自己批判集会に参加しなければならない。
 朝鮮労働党の党員は400万人。北朝鮮にも、最近は、中国から大量のラジオが持ちこまれている。そして、ラジオでは韓国の放送が広く聴かれてる。北朝鮮には有線ラジオがある。多くの家では、このラジオ番組だけが娯楽の源になっている。
 テレビは、まだ普及しておらず、200万台があるのみ。白黒テレビでも、年収の5年分に匹敵する。そして、北には3つのチャンネルしかない。平均的な北朝鮮の人は、映画を年に21回も見に行く。北朝鮮の暮らしでは、映画の代わりになるものは、たくさんはない。
 普通の北朝鮮の人々は、社会的な出世のチャンスについて、ほとんど幻想を抱いていない。不平等を嫌悪している。エリートの子どもたちは、つつましい庶民とはまったく異なる世界で生涯を過ごす。エリートは、大衆の苦しみにはまったく無関心である。
 北朝鮮では、平壌にある少数の最高級のアパートだけが、個人の風呂場がついている。そうしたぜいたくな住居はエリートだけのもの。庶民は、家でタンクのお湯をつかって体をふくか、公衆浴場に行くか、職場単位の小さな入浴施設を使うかしかない。
 北朝鮮の治安は良くない。暴力的な路上犯罪は南より多い。若者の非行集団は日常生活の一部となっている。というのも、北朝鮮の若者は、未来について心配する必要がないからだ。
 北朝鮮には電話番号簿がない。ケータイも解禁されたあと、2004年に再び当局が没収してしまった。
 1996年、北朝鮮の配給制度は崩壊した。数百万人の北朝鮮の人々が食料を求めて国中を動きまわった。
 北朝鮮には全国各地に収容所がある。人口の3~5%が収容所を体験している。
 朝鮮人民軍は120万人の兵力を有している。これはインドの軍隊にほぼ等しい。
 北朝鮮は、政府をあげて密貿易に従事している。偽ドル札、不法な覚せい剤、禁止されている象牙の販売など・・・。
 北朝鮮の兵士は降参しない。それは家族がいるから。家族連帯、責任制は驚くほど効果がある。
 脱北者は、2002年以降、年に1000~1500人だった。2005年に南に住む脱北者は6700人いた。2009年6月には1万600人になった。
 脱北者は南ではうまく生活できず、犯罪率は全国平均より1.7人も多い。
 現在、亡命はそれほど困難ではない。北を抜け出すより、南(韓国)に入るほうが、ずっと難しい。韓国政府は暗黙のうち、脱北をやめさせようとしている。韓国のエリートは、ドイツ統一の教訓に脅えて、韓国のために、北朝鮮を破綻させないように援助することを選んだ。
 現在の状況では、北朝鮮の人々は死んでも、反乱を起こすことはない。
 北朝鮮という、変てこな国の実相を知ることができました。
(2009年12月刊。2400円+税)

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