弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年5月22日

日本のモノづくりイノベーション

社会

著者:山田伸顯、出版社:日刊工業新聞社

 日本は世界に冠たる貿易立国として、国際収支の黒字を続けている。輸出の大きなウェイトを占めるのが製造業で生み出した財で、そのうち機械金属の工業製品が76%を占める。
 そのモノづくりの地位が低下しつつある。さあ、どうするか・・・。
 東京都大田区にある中小零細企業が日本のモノづくりを支えていること、まだまだ日本も捨てたものじゃないことがよく分かり、門外漢が読んでも元気が出てきて、大いに応援したくなってくる本です。
 量産体制を成り立たせるには、それを支える技術(支持産業)が必要である。次々と変化する時代の先端的産業を担う特殊技術や製産分野の中間技術を下支えする底辺の技術で、この基礎的技術が、産業技術全般の発展には不可欠である。これが不十分だと、その国の産業の自立的発展が困難となる。この技術を基盤技術という。
 日本の産業が国際競争において圧倒的に優位だったのは、この基盤技術がしっかりしていたから。ところが、現在、この基盤技術が揺らいでいる。この習得には時間と根気を要する熟練技能そのものであるが、苦労して技能を受け継ごうとする若者が少なくなっていることにもよる。
 大田区の工場は、1983年がピークで、9190、2003年に5040、2005年には4778になった。20年間で4000以上の工場が消滅してしまった。
 海外進出しても、生産技術の生まれる生産拠点を日本国内に温存し、国内を空洞化させないことが日本の企業にとって重要な経営戦略である。
 高校生に工場に入って現場で実戦させる教育がすすんでいることに感嘆しました。そうですよね、これが必要ですよ。
 1年は2週間のインターンシップを年に3回、2年生は2ヶ月の長期就業訓練、3年生も2ヶ月だけど、希望によりさらに2ヶ月の訓練を受けられる。
 職場体験学習が広まることにより、子どもが社会に対する認識をもち、生きることの目的を考えるようになる。受け入れる企業の側では、未熟な若者に教える経験を通して、工程を見直して分かりやすくするなど改善し、社内に新たな刺激をもたらしている。
 そうなんですね。未熟の若者に教えるのは企業にとっても、単なるボランティアだけでなく、それなりのプラス面もあるわけです。
 特許についても、小さな町工場が超大企業と対等の立場で契約したり、見える理論部分だけ特許をとって他の人には分からない電子回路についてはあえて特許を取らないという工夫が紹介されています。町工場が生き抜いていく知恵ですね。
 町工場のいろんな工夫が盛りだくさんに紹介されている面白い本です。
(2009年1月刊。1800円+税)

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