弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年1月22日

シェイクスピア伝

世界史(ヨーロッパ)

著者 ピーター・アクロイド、 出版 白水社

 訳者あとがきによると、本書はシェイクスピア研究者からは酷評されているそうです。というのも、シェイクスピア学者なら犯さないような誤りがあまりにも多いためです。たとえば、エリザベス朝演劇の全体像を理解しないままシェイクスピアを語っていることです。
 注は孫引きばかりとのこと。たまたま読んだ研究書を引用するなど、決して許されない。
 そんな欠点はあるものの、一般読者には、かなり面白い読み物になっています。
 たとえば、当時はエリザベス女王は1603年3月に死んだ。年齢と権力に疲れきって死んだ。人生の最後には、横になって休むことを拒否し、何日もたち続けていた。
 多くの人々が、エリザベス女王は権力の座に長くつきすぎた暴君だと考えていた。エリザベス女王が死んだとき、シェイクスピアは女王を称賛する文章を書いていない。
 エリザベス女王が死んで、スコットランドから新しい王であるジェイムズがやってきたことから、シェイクスピアたちは国王に認められた。国王一座となり、社会的地位は著しく上昇した。
シェイクスピアは、腸チフスのため53歳で亡くなった。その葬式はとても寂しいものだった。学者も批評家も、シェイクスピアのことを友人か誰かと語ろうとすらしなかった。シェイクスピアは表現力豊かな台詞で登場人物を描くことができ、行動のさまざまな原因を意味深い細部をつかってまとめ、記憶に残る筋書きを創作することができた。しかし、シェイクスピアが人に先駆けて発揮した最大の才能とは、おそらく悲劇的・暴力的なアクションの中休みとして喜劇を取り入れたことだろう。シェイクスピアは、大衆の好みに従った。
 シェイクスピアの想像力には、本から生まれたところがあった。種本をすぐ横において、ほぼ一字一句そのままに文章を移しとることもあった。しかし、どういうわけかシェイクスピアの想像力という錬金術を経ると、何もかも変って見えてくる。互いに相いれないような題材からの要素を組み合わせて新しい調を作り出すのが、シェイクスピアの常套手段だった。
  シェイクスピアをまた読んでみたくなる本でした。
 注釈を入れて、上下2段で600頁近い大部の本です。
 毎日曜日の昼下がり、近所の喫茶店でランチをいただきながら、少しずつ読み進めていきました。至福のときでした。

(2008年10月刊。1600円+税)

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