弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年12月16日

東京大学、エリート養成機関の盛衰

社会

著者 橘木 俊詔、 出版 岩波書店

 東大は江戸時代末期に体制派内の学校として誕生した組織に期限がある。当代の歴史は一環として体制派として存続しつづけてきた。もっとも、反体制派ないし反権力派で活躍する卒業生や教員も少なからず輩出しているから、体制派一色ではない。
 東京大学の誕生は1877年(明治10年)。教育による階層固定化の現象が著しかったのが戦前の日本である。それを生んだのは森有礼による教育改革だった。
戦前の日本は階級社会であって、しかもそれは固定化していた。明治11年の東大の在学生の4分の3が士族であった。没落士族の子弟が給費制度を利用して進学していた。授業料を支払う必要もなく、衣食住のための給付金も受けていた。
 東京帝大生の高等文官試験合格者に占める比率は常に6割前後だった。
 官庁での出世は、本人の能力より東大卒というのがもっとも影響している。それに対して上場企業での出世は、大学名より、本人の能力と努力が死命を制する。
 つまり、官界においては東大卒が出世の条件であり、民間においてはそれはさほどの条件にならない。
私も、その点はまったく同感です。弁護士の世界でも実力一本勝負です。東大卒なんて肩書はまったく通用しません。
現代に至って、東大のトップは揺らぎ始めている。
 「官僚の東大」という伝統の中にあっても、法学部以外の学部の卒業生は役所ではトップまでほとんど昇進できない。法学部が圧倒的に有利なのである。
 社長の輩出率は京都大学がトップであり、東大は4位にすぎない。社長の絶対数で言うと、1位が慶応、2位が東大、3位が早稲田と続く。ただし、現在、東大卒の知事が全国の知事のうち半数ほどを占めている。
 国会議員についても、東大出身者が多いが、この30年間に40人ほど減った。かわって慶応大学出身者が24人から75人へと3倍に増えている。
 今や、東大出の官僚経験者が首相になる可能性は非常に低い。
 東大生の官僚志望の低下、政治の世界における東大卒業生の不振が言える。
 東大法科では、司法の世界への人気が高まっている。一番人気は法科大学院、二番人気が外資系企業への就職、三番人気は日本の大企業への就職となっていて、公務員は人気がない。2008年の東大合格者のなかで、東京出身者は3割にまで低下している。
 東大に合格するには、慶応大学並みの家庭の裕福さが必要となっている。これは、階層固定化現象を助長する恐れにつながっている。
 東大生の昔と今を地道に分析している本です。参考になりました。
 
(2009年9月刊。2600円+税)

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