弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年12月15日

時をつなぐ航路

社会

著者 井上 文夫、 出版 新日本出版社

 渡辺謙主演の映画『沈まぬ太陽』を見て、久しぶりに日本映画界の良心に触れた気がしました。
 今の日本には、これだけ失業と貧困、格差の問題が騒がれているのに、労働組合の存在があまりにも軽く、金持ちとそれをバックとするテレビなどの大手マスコミだけが大手をふって歩いている気がしてなりません。お金のない、力のない弱者はまとまってこそ声が大きくなるのですが……。
 この本は、日本航空をモデルとしていると思われる「N航空」が舞台です。航空現場に働く人々の大変な労働環境が詳しく紹介されています。よく飛行機を利用する私としても、実感として分かります。
 ファーストクラスは客席こそ11席しかないが、乗客へのサービスも多岐にわたり、豊富な業務上の知識だけでなく、細やかな気配り、乗客へのもてなしにさりげなくのぞかせる教養といったものまで必要とされる。
 なーるほど、ですね。といっても私はファーストクラスを利用したことは残念ながらありません。
 外国籍の客室乗務員は1年単位の契約社員で、賃金は日本人よりずっと低く、何年働いても最初の契約条件のままである。外国籍の客室乗務員は、コスト削減のために会社が採用した。日本人の客室乗務員に比べ、賃金や労働条件はひどく悪いので、ある程度の乗務経験を積むと、より条件のいい航空会社を探してさっさと転職する。
 契約制客室乗務員は、基本給もなく、また正社員に保障されている月間64時間分の乗務手当の最低保障もない。だから、乗務しない限り賃金の上乗せはないし、そのうえ乗務手当の1時間あたりの単価は、正社員の半分程度でしかない。契約制客室乗務員の手取り額は総じて月20万円前後である。有給休暇も、正社員は年間20日なのに、契約制客室乗務員は10日しか与えられない。
 航空性中耳炎は、0.8気圧程度で巡航している航空機が着陸する際に、急激な気圧の変化によって中耳に圧力がかかり、炎症を起こす病気である。乗務のたびに離着陸を繰り返す客室乗務にとって、航空性中耳炎は職業病ともいえるものである。
ニューヨークのホテルの部屋に入ると、まずドアを半開きのままスーツケースで止めて、窓の両側に括られたカーテンの裾にじっと目を凝らす。それから、洗面所の扉を開けて中を見回す。次に、上半身を払ってベッドの下をのぞきこむ。これらは北南米のどこのホテルに滞在するにしても客室乗務員が入室の際に行うものだ。不審者がいないことをそうやって確かめる。過去に、部屋で待ち伏せしていた侵入者に暴行を受けた客室乗務員やベッドの下に見知らぬ死体が横たわっているのを翌日になって発見したという事例があるので、慎重にならざるをえない。ルームサービスさえ怖くて頼めないという客室乗務員は多い。
 うへーっ、そ、そうなんですか……。ホント、怖い思いをするんですね……。
いま、日本航空の経営危機がさかんにニュースになっています。ともかく、飛行の安全第一を願っています。よろしく頼みます。
 
(2009年10月刊。2000円+税)

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