弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月17日

罪と音楽

司法

著者 小室 哲哉、 出版 幻冬舎

 私にとって小室哲哉という人は、有名らしいね、というにすぎません。テレビは見ないし、歌謡曲を聞くこともありませんので、おそらく彼が作詞・作曲した曲を聞いたこともないと思います。ただ、人気の音楽プロデューサーが5億円もの詐欺事件で逮捕され、有罪になったことは知っていましたから、弁護士として、本人がどんな思いで裁判を受けたのか知りたいと思って読んだのでした。
 なにより驚いたのは、さすがにプロのミュージシャンだけあって言うことが違うということです。
 まわりが見えなくなるくらい音楽に没頭したとき、音楽は降ってくる。天なのか、空なのか、とにかく自分のはるか上から降ってくる。
 何かが心の琴線に触れると、頭の中で音が鳴る。だが、あくまで断片でしかない。そのいくつかを広い集め、膨らませながら一曲に仕上げていく。集中力が必要だ。なーるほど、ですね。考えに考え、じっとあたためていると、いつか突然ひらめくという話は、私にも経験があります。
 シンガーの音質が肝心。オーディションの合否を決めるのに3分間も歌を聴く必要はない。「はじめまして」とあいさつしたとき、もう5割は決まっている。
 美輪明宏、美空ひばり、松田聖子なら、歌い始めた瞬間に合格を決める。声の倍音構成があまりにも素晴らしいからだ。歌唱トレーニングし、音楽を勉強すると音痴はある程度は解消できる。リズム感も身に着く。しかし、音質だけはどうしようもない。たとえば、「ドー」を発生したとき、1オクターブ上のド、さらにドに対してハーモニーを構成するミやソの音が聞こえてくる声がある。それは倍音構成の素晴らしい声だ。
 なるほど、こればかりは生まれ持った天性によるものなんですね。
 著者は、ある意味で裁判になって良かった、人生を立ち止まって考える機会を与えてくれたと前向きに考えているようです。これって、いいことですよね。いつまでもくよくよしていても始まりませんからね。
 ブレイクする。売れる。有名になる。どの場合も、アンチが急増する。これが世の常だ。だから、アンチの声に耐えられるだけの強さと、それに慣れてしまうだけの鈍感さがないと、人前に出る仕事はできない。ふむふむ、これって弁護士の仕事をしている私にも、なんだか身近なものに感じられる、よく分かる話です。
 たとえば、この書評ブログにしても、有名でないから非難をあびることもありませんが、それでも、たまにきつい非難のお叱りを受けることがあります。そんなときは、不本意ですが、とりあえず謝罪するようにしています。だって、私個人のブログではなく、弁護士会のホームページに寄生しているからです。
 著者は、別れた奥さまに3億円の慰謝料を支払い、長女に月200万の養育費を支払うことにしていたそうです。すごい金額です。弁護士生活35年を過ぎましたが、私が扱うのはせいぜい慰謝料300万円、養育費3万円というものです。ケタがいくつも違いすぎます。
 ロスに6億円、ハワイに1億円、バリ島に2億円の別宅を購入したということです。まるでピンとこない話です。
 金銭感覚のゆがみは、1998年、確定申告の収入が1億円をこえたときだ。
 なーるほど、そういうものかもしれませんね。芸術家という職業が絶えず強迫観念とともに生きている存在であることを改めて認識させられました。
 子どものころの憧れを成就させるには、次の10段階を必要とする。出会い、衝撃、あこがれ、観察、真似、分析、応用、自在、個性、放出。
 なるほどなるほど、よくよく分かる気のする分析です。よほど考えぬいたのですね。
 
 熊野那智大社では見上げる絶壁から流れ落ちる大滝を拝みました。すごい断崖絶壁です。そのあと、青岸渡寺におまいりし、那智黒石のふくろう様を記念のお土産品に買い求めました。好天にもめぐまれたくさんの人出でした。
 わたらせ温泉のささゆりは大きな旅館です。大露天風呂に行くにはつり橋を渡ります。朝早く渡っていると青い宝石とも呼ばれる小鳥(カワセミ)がきらきら光る青い背を輝かせながら川面をすばやく飛んでいるのを見かけました。


(2009年9月刊。1300円+税)

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