弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月11日

絞首刑

社会


著者 青木 理、 出版 講談社

 いまの日本には、悪いことをした奴はみんな死刑にしろと声高に叫ぶ人がいて、それに反対するのに勇気がいります。なんだか怖い社会風潮です。でも、死刑がどうやって執行されているのか、死刑囚の処遇がどうなっているのか、まったく知らないまま(知らされないまま)死刑肯定論が強まっている気がしてなりません。EU加盟国になるための条件の一つが、死刑を廃止していることだということを、日本人はきちんと認識して、受け止めるべきではないかと思うのです。ともかく、死刑制度が犯罪予防にならないことは古今東西の事実が証明しているのですから……。
 刑場の隣の小部屋には、壁に複数のボタンが横一列に並んでいる。5センチ四方の枠に囲まれた赤いボタンだ。古い拘置所の刑場なら5つ、新しい拘置所の刑場なら3つ。このボタンのうちどれか1つが、死刑囚の立たされる1メートル四方の床を開閉する油圧装置に連絡されている。その装置に誰のボタンがつながっているのかは分からない。だが、誰か一人のボタンは間違いなくつながっている。
 ボタンから少し離れた位置の壁には、金庫のダイヤルのようなものがある。どのボタンを油圧装置に連結するかは、そのダイヤルによって決められる。事前にベテランの刑務官がセットしておく。しかし、ボタンの前に立つ若い刑務官たちは、ダイヤルが導き出した結果を永久に知らされることはない。
 執行にかかわる刑務官の選択は、拘置所長が「それなりの配慮」をする。当日が誕生日に当たる者や、妻が出産を控えている者、近親者が重い病を患っていたり、親族の喪中である者などを除外して、最終的に10人のメンバーを慎重に選び出す。
数メートルもの落下による重力と自分自身の体重。そのすべてが首に集中する。通常の首つり自殺でも折れることのある甲状軟骨や舌骨は瞬間的に砕け、首を支える筋肉が切れ、7つの頸部脊椎が離断する。同時に、脳と身体の神経をつなぐ頸椎も断裂する。だから、おそらく瞬時に意識を失うはず。だが、真実は誰にもわからない。
 死刑囚が落下して、最終的に心臓が停止するまでの平均時間は13~15分間。
 2006年12月25日、クリスマスのこの日に、日本全国3か所の刑場で合計4人の死刑が一斉に執行された。長勢甚遠法務大臣の命令によって、東京2人、大阪1人、広島1人。東京の2人は、77歳と75歳だった。75歳の死刑囚は、自力歩行すらできない車椅子の障害者であり、敬虔なクリスチャンとなっていた。
この背景について、著者は次のように解説しています。死刑判決が急増し、2006年には21人に死刑判決が確定していた。そこで、確定死刑囚は12月段階で98人に達していて、法務省幹部は何としても100人を超えないようにしたいという打算が働いていた。その後、結局100人は超えたのですが……。
確定死刑囚との面会は法務省の通達などによって厳しい制約があり、親族など一部の例外を除くと、原則としてほとんど不可能だ。
2007年までの10年間に死刑執行された死刑囚をみてみると、判決確定から執行まで平均8年。ところが。2008年の1年間で執行された15人のうち、12人は4年未満だった。このうち2人は2年未満だった。
死刑執行を命令したのは、鳩山邦夫法務大臣が13人で最多、長勢甚遠法相が10人で2番目。
2007年の確定死刑囚は107人。死刑執行は2008年に15人で最多だった。
死刑囚の処遇と、判決の執行について、考えさせられる本でした。
 
(2009年7月刊。1600円+税)

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