弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年8月 3日

ニホンミツバチが日本の農業を救う

生き物

著者 久志 冨士男、出版 高文研

 いやあ、日本にはニホンミツバチがいて、病気知らずで元気に飛びまわって日本の農業を支えてきたんですね。ちっとも知りませんでした。ミツバチと言えば、セイヨウミツバチとばかり思っていました。セイヨウミツバチは、人類と同じで、アフリカが発祥の地だそうです。
 ニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜称。アジアの多湿な環境に強いトウヨウミツバチの中でも、さらに寒冷地に適しており、強健なミツバチだ。ニホンミツバチは病気にかからない。
 いまミツバチがいないと騒がれているのはセイヨウミツバチ。一群あたりの集蜜力が他の種に比べると抜群に高く、そのため世界中で飼われている。湿気に弱いため、病気にかかりやすい。人の手を離れたら、1年も生きていくのは難しい。だから野生化することはない。
 ニホンミツバチは生活力が強い。冬は、セイヨウミツバチよりも低い温度で仕事を始めるし、夏は日没後まで働き、暗闇の中を巣箱に帰ってくる。ただ、ニホンミツバチは、セイヨウミツバチのように女王蜂を人工的に産出して群れを増殖させたり、花粉媒介用として利用する技術は、まだ確立していない。
 古来、ニホンミツバチは日本の森林や農業を守ってきた。ニホンミツバチは野生種である。だけど、人間が優しく接すると、優しく対応してくれる。
 ニホンミツバチがいないのは、北海道と沖縄のみ。あとは、日本中どこにでもいる。
 ニホンミツバチを飼うのは容易である。ニホンミツバチは人に馴れるし、とてもおとなしい。面布や燻煙器も必要ない。
 ニホンミツバチは黒っぽい色の縞模様の幅が均等であり、上を向いてとまる。セイヨウミツバチは、腹部の中央部がオレンジ色で先端が黒く、下を向いてとまる。
 ニホンミツバチは、巣箱の中でお互いに寄りあって丸くなって過ごせるので、体温が逃げにくく、ミツも体温で柔らかくなるので、食べやすい。
 ニホンミツバチは一つの巣に平均5000匹いる。その半数が花蜜や花粉を集めに飛びまわる外勤。半数が巣づくりや子育てをする内勤。この仕事分担は生まれつきに決まっているのではなく、年齢ならぬ日齢で決まっている。
 初めは幼虫の世話をして、そのうち外から持ち込まれる花蜜の受け取りやら整理をし、やがて番兵となり、外勤になる。役割はフレキシブルで、必要に応じて変わる。
 女王蜂は1匹だが、1年前に生まれた女王と、今年うまれた女王の2種類がある。
 今年うまれの女王は護衛をともなって1週間ほど毎日、交尾飛行に出かける。このとき交尾をした雄蜂が多いほど産卵力が強い。女王蜂は2年間、毎日、数百個の卵をうみ続ける。そのための精子を1週間で貯めこむ。
 ミツバチの巣分かれは働き蜂の総意で決まることで、女王蜂はそれに従っている。何の卵をうむのかも女王が決めるのではなく、働き蜂たちが決める。
 働き蜂の寿命は忙しいときで2ヶ月、越冬ハチで4ヶ月。
 女王蜂が老齢化し繁殖力がなくなるときは必ずやってくる。それは突然やってくる。女王が誕生して2年数ヶ月後のこと。女王に繁殖力がなくなると、働き蜂は少しずつ数を減らし、王国は消滅に向かう。女王が何らかの事故にあっていなくなると、働き蜂たちは絶望し、生きる意欲をなくし、何もしなくなる。ニホンミツバチは、人間と同じように、愛と生き甲斐をもって生きる動物である。
 ニホンミツバチとは対話ができる。人に馴れ、仲直りすることもできる。最初の出会いが肝心で、これをパスしたら、敵ではないという認識が巣全体に共有され、その後は警戒されなくなり、少々のことをしても寛大に扱われる。
 ニホンミツバチは人間は認識するが、個人の認識まではしない。ニホンミツバチは巣内では、お互いの身体を接触させているので、一匹のハチの感情は瞬時に全体のものになる。
 うれしいときにはうれしそうな羽音を出し、いらだつときには苛立たしそうな羽音、怒ったときには甲高い羽音を出す。まるで人間と同じ心をもっているかのようだ。
 セイヨウミツバチは、いちど手荒く扱うと、いつまでも忘れないくせに、優しく扱っても、なかなかそれに応えてくれるようにはならない。ニホンミツバチのもつ知的能力はオオスズメバチとの戦いを通じて培われてきた。
 ニホンミツバチはオオスズメバチに集団で飛びつき、蜂球の中に取りこんで、体温を上げて5分で熱殺する。このとき44度にまで上がる。
 ニホンミツバチ養蜂が生業として成り立っていないのは、一群あたりの生産量がセイヨウミツバチの8分の1でしかないから。
 ニホンミツバチを長崎県五島で復活させた経験が紹介されています。ニホンミツバチをすっかり見直してしまいました。

(2009年7月刊。1600円+税)

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