弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月31日

雪冤

司法

著者 大門 剛明、 出版 角川書店

 横溝正史ミステリ大賞の受賞作だということですが、なるほど、ぐいぐいと惹きつけられます。神戸からの帰りの新幹線で一心不乱に読みふけりました。
 ミステリー小説ですし、犯人捜しは、いくつものドンデン返しがあって、意外な結末を迎えるのです。したがって、粗筋を紹介するのもやめておきます。ともかく、日本の死刑制度を考えさせる一作であることは間違いありません。
 ただ、最後の謎ときの段階に至って、やや落としどころが乱暴ではなかったかと気になりました。最後まで読者を謎ときに惹きつけ、その期待を裏切らず、また意外性を持たせるというのは、とにかく至難の業だとつくづく思います。
 この本は、司法試験に苦労して合格した人が出てきたり、61歳で弁護士稼業をやめた人が出てきたり、かなり弁護士業界の内幕を知っていないと描けないような状況描写がいくつもあります。もし著者自体がその位置にいないのであれば、かなり弁護士に取材を重ねたことでしょうね。
舞台は京都です。鴨川にホームレスがいて、同志社大学やら龍谷大学の学生たちも登場してきます。殺人罪で死刑囚となった息子をもつ61歳の弁護士が、主人公のような存在で登場します。
 最近、凶悪犯罪を犯した死刑だ、すぐに死刑にしろという風潮が強まっていますが、私はそれはとても危険だと考えています。この本では、死刑執行ボタンを押す国民を抽選によって有権者から選んだらどうかという案が真面目に提案されています。死刑制度を存置するというのなら、他人にやらせずに、自分が死刑執行ボタンを押し、人間が死んでいく姿を見届けさせるべきだというのです。実際には無理なことでしょうが、それを嫌がるようだったら、死刑制度について簡単に賛成してほしくないというのは、私の率直な気持ちでもあります。
 ミステリ大賞の選書の評が最後にのっていますが、さすがに、なるほどと思う評です。
 最後のどんでん返しの連続が逆効果としか思えなかった(北村薫)。
 多少の無理筋を押してでも、最後の最後までどんでん返しを出そうとする本格ミステリ的結構に作者の心意気が感じられた(綾辻行人)。
 まことに、ミステリー小説を書くというのは難しい人生の作業だと思います。つくづくそう思いながら、私も及ばずながら似たような小説に挑戦中なのです。乞う、ご期待です。
 
(2009年5月刊。1500円+税)

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