弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月 2日

疑心…隠蔽捜査3

司法(警察)

著者 今野 敏、 出版 新潮社
 キャリア組で降格処分を受けて警察署長になった主人公が、アメリカ大統領が来るときの方面警備本部長に任命されます。本来、一署長がそんな地位につくはずがないのです。なにかの間違いだと問い合わせても、その通りだという答えしか返ってきません。何か重大な失策をやらかせて、追い落としを図る陰謀ではないのか……。
 うまいですねえ。実に気を惹く出だしです。
 警備本部には、いくつかの等級がある。最高位は、最高警備本部。国家に甚大な影響を及ぼす恐れがある事柄を警戒し、防止するためのもの。警察庁内に置かれ、本部長は警察庁長官ないし次長がつとめる。
 次に、総合警備本部。警備事案を担当する警察本部に置かれる。本部長は警視総監か道府県本部長が任命される。
 その下が、特設警備本部と特別警備本部。「特設」は国宝の保護とか群集に対する警備を扱う。本部長は警察庁警備局の警備課長が理事官。「特別」は、日米合同演習などの特別な場合に設置する。本部長は警視長が担当する。
 方面警備本部は場所を一定の区域に限定して設置する。本部長は警視正。
一番下が、管内警備本部。これは警察署長単位の警備態勢。範囲は署の管内のみ。本部長は、署長か課長。
 この本では、キャリア組の警察官僚がお互いに拮抗しながら動き回る様子が描かれ、また、下積みの刑事の苦労がそれを支えていることも明らかにしています。と同時に、キャリア組の署長がついつい「不倫」願望のような、人間らしい悩みにはまって泥沼をはいずりまわる心理状態を追い続けていますので、読み手に人生の深い淵をのぞかせる気にさせてくれます。そこらあたりの人情の機微は、見事なものです。
 アメリカの大統領を守るためのシークレットサービスが先発隊としてやってきて、日本の警察を思うように動かそうとして、あつれきが発生します。おそらく、こういうことも起きるんだろうな、と思わせる描写です。
 心理描写にも優れた警察小説として、一気に読み上げました。
(2009年4月刊。1500円+税)

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