弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年10月17日

「絶対帰還」

宇宙

著者:クリス・ジョーンズ、 発行:光文社

 人間にとっての宇宙飛行の危険な実情をいまさらながら知ることができます。アメリカの宇宙ステーションの危機を救ったのが、人命尊重第一のロシアの宇宙船だったという話は笑えない現実です。アメリカの人道主義も意外に底が浅いんですね。
スペースシャトルの85%が燃料である。液体酸素54万リットルと液体水素14万リットルが入っている。これらがエンジン点火と同時に二つの予備燃焼室で混合されて高圧ガスを発生させ、シャトルの3基の主エンジンに燃料を供給するターボポンプを駆動する。その後、ガスは主燃焼室で燃やされ、その温度は3316度にまで達する。
 宇宙服が明るいオレンジ色をしているのは、万一の場合に備えてのこと。オレンジ色は目立つので、海に落下したときに宇宙飛行士(またはその遺体)を発見しやすい。
 スペースシャトルの飛行士は、まずフライト用おむつと上下つなぎの長い下着を着用する。その上に完全防水耐寒スーツ(与圧服)、パラシュート、ハーネス、浮揚装置のついたスーツを着る。
 ソ連の宇宙飛行士は、アメリカの飛行士と違って、飛行中におむつを着用するのを断固拒否した。おむつをあてられるより、打ち上げ前の数日間絶食をして、氷水の浣腸を受けた方がましだ。いやあ、す、すごーい、ことです。
 トイレに行くという行為は、宇宙旅行においては、元来つねに大きな危険を伴うものの一つである。男子の排尿は、ホースと吸引装置の助けがあれば容易だ。大変なのは、排便のほう。新人飛行士はまず間違いなく、やんちゃな排泄物を相手に悪戦苦闘させられる。地球周回軌道上における排便行為は、決して受動的運動ではない。
いやあ、これって想像するだけでも大変なことですよね。これを読んでいる人が食事中だったら申し訳ありませんが、狭い宇宙船内で「やんちゃな排泄物」と格闘させられるなんて、考えてみただけでゾっとしますよね。
宇宙飛行士は食べ物の味があまり感じられなくなる。無重力の影響による鬱血のため、体液が下に下がらず顔がはれたようになり、鼻づまりを起こしてしまう。
 しかし、宇宙ステーションに閉じ込められている宇宙飛行士にとって、食べ物の選択はきわめて重要だ。避けがたい身体的な衰弱と戦うためにも、食欲を失うわけにはいかない。選択肢は限られている。毎日、メニューに従って食事をこなしていくしかない。一日3食、一定の栄養が含まれた食事をとり、間食もたっぷり食べなければならない。厳選されたメニューを8日で一巡させるのが決まりである。やっぱり美味しいものを、バラエティーに富んで、ゆっくり味わいたいものですよね。
 眠るときには、枕に頭を縛り付ける。そうしないと枕の柔らかい感触が楽しめない。ときどき腕がひとりでに宙に浮いてしまい、まるで溺れかけている船乗りのようになってしまう。
 吐き気がおさまるまでに何日もかかる飛行士もいる。その間、ずっとフェネルガンという制吐剤を自分で注射し続けなければならない。うむむ、これも大変なことです。
 一掴みのアスピリンを口に放り込んで、足や背骨の痛みと戦う飛行士もいる。重力によって狭まっていた骨と骨との間隔が無重力状態では3センチも広がってしまうからだ。
 310日間、宇宙に滞在したソ連の宇宙飛行士は、毎日2時間、ランニングマシンで鍛錬を欠かさなかったのに、歩くことも立つこともできなくなっていた。椅子に座らされ、そのままテントに運ばれた。宇宙で、骨は急激に衰え始めるのだ。そ、そうなんですか。宇宙って、やはり苛酷な環境なんですね。
 ロシアのソユーズは、登場から40年たった今でも現役の宇宙船として使われている。スペースシャトルよりかなり小さい機体だが、人員往復がその目的であるため、信頼は非常に高い。2003年にアメリカの宇宙ステーションの3人の飛行士が地球に帰れなくなった時、救助で使われたのはこのロシアのソユーズだった。
 話があっちこっちに行きつ戻りつしますので、読みにくい本ですが、宇宙飛行士の置かれる大変厳しい状況がよく伝わってきます。私は宇宙飛行士になる勇気なんて、とてもとても、まったく持ち合わせていません。私なんか、我が家のベランダから望遠鏡で月世界を眺めるだけで十分です。 
 庭の秋明菊が少しピンクの入った真っ白で上品な花を咲かせています。
(2008年7月刊。2300円+税)

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