弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年7月25日

死刑

司法

著者:森 達也、出版社:朝日出版社
 死刑判決が急増している。2006年の1年間に出た死刑判決は、44件。地裁13人、高裁15人、最高裁16人。1980年以降、もっとも多い。地裁での死刑判決は3倍にも増加している。
 アメリカでは死刑の執行は、通常、金曜日の午前2時。その週の火曜日に死刑囚は執行室隣の監房に移される。区画内は自由に出入りできるし、外部への電話も自由。処刑の日時は死刑囚の家族にも連絡され、最後の面会がある。
 処刑の立会人は16人。公的立会人4人に加え、被害者遺族や死刑囚の親族の立会も可能。メディア関係者5人の枠もある。
 日本では死刑存置の声が急増している。死刑廃止6%に比べて、81%。「どんな場合でも死刑廃止という意見に賛成か!」と問われると、賛成は16%弱で、反対は66%強である。日本は少し異常としか言いようがない。
 すでに世界では死刑廃止が大勢である。死刑廃止国133ヶ国に対して死刑を実施する国は半数以下の64ヶ国。アジアと中東とアフリカの一部でしかない。ヨーロッパはみな死刑を廃止した。EU加盟の前提になっている。
 カナダでは1975年に死刑を廃止してから、殺人事件が大幅に減少したというデータを政府が発表した。私も、この説です。死刑がなくなれば、かえって治安は良くなるのです。死刑を存続させているアメリカなんて治安が悪化する一方なのです。
 死刑になりたいから人を殺す。犯罪大国でもあるアメリカでは、そんな実例がいくつもある。そうなんです。先日の秋葉原の連続殺傷事件もそうだったと思います。
 私は誰がなんといっても死刑廃止派です。国家が人間を殺すなんて許されません。もちろん、人が人を殺すのを許すつもりはありません。でも、単純な報復主義がはびこる社会は悪い方向にすすむだけだと確信しています。カナダの実例があるわけです。
 死刑について考えさせてくれるいい本だと思います。
 今の法務大臣は私とまったく同世代です。これまで既に13人の死刑囚を処刑してしまいました。私は、せめて死刑執行を停止して、もっと真剣にそもそも犯罪をなくすにはどうしたらよいのか、報復主義を横行させていいのか、被害感情優先でいいのか、正面から社会全体で議論すべきだと考えています。目には目を、歯には歯を、では決して安心して生活できる社会を築いていけない、これは35年間の弁護士生活を通じた実感です。
(2008年1月刊。1600円+税)

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