弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年5月23日

同盟変革

社会

著者:松尾高志、出版社:日本評論社
 自衛隊の本来任務は、自衛隊法第3条に規定されている。それ以外のものは付随的任務であって、本来任務に支障のない限り行うという扱いだった。そして、海外展開任務は、自衛隊法では、雑則あるいは付則に入っていた。ところが、それを全部まとめて3条2項をつくって本来任務とした。
 たとえば、アフリカに派遣された自衛隊の駐屯地のそばで暴徒があばれ、現地の政府軍が発砲して大騒動になったとき、見張り台の上にいた自衛隊員は、命令の前に逃げていた。命令がないのに逃げるのは軍隊ではない。
 また、自衛隊がトラックで物資を輸送するとき、自衛隊には警護の任務は付与されていないため、外国の軍隊に警護を依頼せざるをえない。このように自衛隊は、軍隊でありながら、国際法上の軍隊としては海外に行けない。
 さらに、軍刑法のない現状では、自衛隊は刑法にしばられて行動する。裁かれるのは地裁である。これでは軍として動けない。海外展開を本格的にしようと思えば、軍刑法と軍法会議が、どうしても必要だ。
 これから自衛隊が海外展開するにあたってのネックになるのは、武器使用の問題である。
 海外展開の最初は1992年のPKO法によるもので、武器使用は個人判断であり、刑法にいう正当防衛と緊急避難だけだった。
 防衛省に昇格して発表されたロゴマークは、日本を守る自衛隊ではなく、世界平和のために戦う自衛隊への大きな転換・変質を如実に示している。
 そういわれると、まさにそのとおりの図柄です。みなさん、よく見てやってください。
 イラク戦争の実質的な責任者であるアメリカ中央軍のアビザイド司令官は、記者会見のとき、「イラクでは古典的なゲリラ型の戦闘がアメリカ兵に対して行われている。われわれの軍事用語でいうと低強度紛争だが、まさにこれは戦争だ」と述べた。
 自衛隊はアメリカ軍とのあいだでACSA(日米物品役務相互提供協定)を適用し、自動車部品や燃料などの物品や輸送などの役務を提供することとし、2003年12月、イラク作戦実施中のアメリカ中央軍と自衛隊の詳しい取り決めをした。自衛隊が海外でACSAを適用するのは初めて。
 自衛隊はイラクに派遣するにあたって、初めて「部隊行動基準」を決めた。これは国際的には「交戦規則」と言われるものであるが、憲法によって自衛隊には「交戦権」がないため、「交戦規則」と言えなかっただけのこと。
 アメリカ軍の部隊編成において、実は「在日米軍」とは、「日本の領土・領空・領海に存在する」米軍をいう。したがって、日本の領域から離脱すると、その米軍は「在日米軍」ではなくなる。
 現在、横田基地には、アメリカ第5空軍司令部とともに、在日米軍全体を統括する日米軍司令部が置かれている。この2つの司令部の司令官は実は同一人物が兼務している。1人の空軍中将が「2つの帽子」をかぶっている。
 昨年6月に急逝してしまった著者の貴重な論稿を集めた本です。
(2008年3月刊。2700円+税)

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