弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年5月16日

実録「取り立て屋」稼業

社会

著者:杉本哲之、出版社:小学館文庫
 元大手サラ金会社の従業員が懺悔(ざんげ)の告白をした本です。サラ金は人の不幸を助長する存在であり、その汚さや醜さを多くの人に知ってほしいという思いから書かれています。
 著者が大手サラ金会社に勤めていたのは、2001年10月から2006年3月までのこと。一般企業を辞めて転職してサラ金会社に入社した。サラ金会社は、毎年100人以上を採用するが、ほとんどの人は1年以内に辞めてしまう。
 同じ事は商品先物取引会社についても言えます。やはり、まともな人はやっていけない「あこぎな商売」なのです。
 サラ金の店舗は1階にあるともうからない。1階にある店には、お客が入りたがらない。
 サラ金業界では横領事件がつきもの。そのほとんどが男性社員による。女性のほうが保証人になっている両親に迷惑はかけられないという心理が働くから。
 サラ金にとって、客は生かさず、殺さず、これが金科玉条である。社員は借金を完済しようとする客をなんとかくい止めなければならない。ほとんどの回収業務は電話によってなされている。
 多重債務者の家には、ある一定の共通した特徴がある。家の周りは散らかり放題で、庭には草が茫々と茂っている。日中なのに雨戸やカーテンの閉まっている家も多い。郵便ポストにはあふれんばかりの郵便物が詰まっている。居留守をつかう債務者もいる。電話に出ても、「留守番の者です」と答える。他人を装う。また、サラ金からの電話だと分かると、「ただいま留守にしています。御用のある方はピーッという発信音のあとに、お名前と電話番号、メッセージをお残しください。ピーッ」と自分の生声で繰り返す者もいる。
 架電回収業務は、債務者を上手に追い込みながら回収率というスコアを獲得していく楽しいゲームになった。ゲームだと思えば、相手の痛みなど、まったく伝わってこない。会社のマニュアルでは、ケータイへは1日3回、自宅へは2回、勤務先へは1回までと決められていたが、守らなかった。とくにプレッシャーとなる勤務先への架電は、1日に何度も繰り返した。家族のいる自宅に架電することも、プレッシャーをかけるための有効手段だった。
 ところが、次第に自分のしていることに嫌気がさすようになっていった。精神状態が少しずつ変調をきたし、ときどきひどい疑心暗鬼と人間不信に陥っている自分に気がついた。
 そうでしょうね。まともな人間のする仕事ではないと思います。人間の弱点を毎日毎日ついていくのですからね。
 ホタルが飛びはじめたというニュースを地元紙で読んで、近くにあるホタルの里へ歩いて出かけました。ホタルは暗くなってまもないころが一番よく飛びますので、夕食をすませたあと暗くなってから出かけました。ホタルの里は歩いて5分くらいのところにあります。途中にバイパス道路が工事中です。残念なことにホタルの出る小川が3面張りコンクリートに変わっていました。もちろん、そこにはホタルの姿は見えません。その先にあるホタルの里に着くと、ようやくホタルが何匹かチラホラ飛んでいました。ホタルの明滅するテンポは、あくまでゆっくりです。まあ、なんでそんなに人間はせわしいの。もう少しゆっくりやったらいいのよ。そんな感じです。ゆっくり、フワフワと漂うホタルを眺めていると、心が洗われ、せかせかした気分がうすらいできます。今年はじめてのホタルでした。梅雨の大雨までの1ヶ月間の楽しみです。
(2008年1月刊。476円+税)

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