弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年5月 9日

貸し込み(下)

社会

著者:黒木 亮、出版社:角川書店
 日本の裁判がいかにあてにならないものか、いやというほどあからさまに見せつけられます。どうやら著者自身の実体験にもとづく小説のようです。少し前の新聞に著者インタビューがのっていて、それで知りました。
 ファックスの日付なんて、ファックス機の入力データを変えれば、いくらでも操作できるじゃないか。
 うひょー、そ、そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。デジタル・カメラによる写真はあてにならないというのは聞いていました。フィルム・カメラによる写真だと、そう簡単に合成はできませんが、デジタル・カメラだと、パソコンをつかえば合成写真なんて簡単なのです。
 この本は銀行の貸し手責任があるのかないのかを厳しく追及しています。日本の銀行はコンプライアンス、つまり法令にしたがった貸付と回収をしていない。そんな銀行はまともじゃないという叫びです。
 ところが、それを国会で激しく追及した議員は女性スキャンダルで蹴落とされてしまうのです。いやあ、これもよくある話ですね。銀行からいいようにあしらわれた被害者は、銀行との裁判の過程で、自分の弁護士を何回も変えていきます。要するに、その弁護士に能力があるかどうかというより、自分の主張をどれだけ法廷で陳述・敷衍してくれるかどうかという基準で変えていくわけです。その結果、どうなるか?
 長い準備書面に書かれているのは、何の論理も、説得力もない、感情の赴くままの罵詈雑言(ばりぞうごん)の羅列であった。目を三角に吊り上げた依頼者の喚き(わめ)き散らしを、そのまま文章にしただけ。
 いやあ、たしかに、これと同じような弁護士がたしかにいます。依頼者の言うことを 100%、いや120%裁判所に伝えることが弁護士の役割だと思いこんでいるのです。私は、決してそうは思いません。社会正義というのは、依頼者の思いとは少し違ったところにある場合もあると思うのです。依頼者とは十分に話し込みますが、ときには辞任するしかないということもあります。
 脳梗塞患者に21億円も融資し、その大半が両建て、しかも、保証人の署名は偽造、借入申込書は銀行員が書いた。これは、明らかに犯罪行為だ。
 大銀行のなかに犯罪がまかりとおっているのですね。
 ところが、被害者が勝つべき事案なのに裁判所は敗訴判決を下します。大銀行を救済したのです。法廷で重要証人の尋問途中に居眠りをしていた裁判長による判決です。
 とにかく常人の理解を超える判決だ。こんなんだったら、最初から裁判なんかやっても意味はないよな。なんだか、日本はダメな国だね・・・。
 35年間、日本で弁護士をしている私も、この指摘にはかなり同感です。国、行政、大きいところには弱いのが日本の裁判所なんですね。まったくいやになってしまいます。
 ところが、勝ったはずの大銀行が昨今の企業買収により、別の大銀行の傘下に入ることになり、裁判担当は早急に和解して決着することを命じられます。悪は長続きしないものですが、いつもそうなるとは限らないのが残念ながら現実です。
(2007年9月刊。1400円+税)

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