弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年12月28日

文章のみがき方

人間

著者:辰濃和男、出版社:岩波新書
 さすが朝日新聞の「天声人語」を13年間も書いていた人による文章の書き方の教えです。私も身につけたいと思うところが多々ありました。
 毎日、書く。私も、こうやって書評を毎日、書いています。事務所で書くことは一切ありません。いつも自宅の今の大きなテーブルに向かって書きます。やはりテーブルは広々としたものがいいのです。参考文献も置けますし、なにより気宇広大です。せせこましい、みみっちい気分では書くのもスケールが小さくなります。いえ、身辺雑記を書くにしても、気分は宇宙的でありたいわけです。
 書き抜くこと。私の書評を読んでいただいている方は先刻ご承知のとおり、ほとんどが書き抜きです。だから、もとの本を読んだ気分になれると好評なのです。私は、すべて手で書き写しています。コピーを貼りつけるようなことはしていません(準備書面の方は、いつもあれこれコピーして貼りつけていますが・・・)。
 書き抜くと、次のようなメリットがあるそうです。なるほど、と思います。
 書き抜くことで、自分の文章の劣った点、たとえば紋切型を使いすぎることに気がつく。うむむ、これはなるほど、と思いました。私もついつい、ありきたりの紋切型になってしまうので、いつも自戒しています。
 乱読は楽しい。あの加藤周一がこういったそうです。著者は無条件に賛成と言っています。もちろん、私も同じです。乱読すると、黄金の本にぶちあたることができます。いくつかの本を厳選して精読するのもいいと思いますが、乱読は決してやめられません。
 辞書なしに文章を書こうとするのは、車がないのに運転しようというのと同じ。私も、辞書はよく引いています。同じ言葉を2度つかわないように類語を調べるのもモノ書きの義務のひとつなのです。
 いい文章を書くために必要なことは、まず書くこと。
 作文の秘訣を一言でいうと、自分にしか書けないことを、誰にでも分かる文章で書くこと。これは井上ひさしの言葉です。
 なーるほど、そういうことなのでしょうね。私も、私の青春時代に体験した1968年の東大闘争とセツルメント活動をぜひとも世間の皆さんに知ってもらいたくて、本を書き続けています。
 漢字が多すぎると、ページ全体が黒っぽくなって読みにくい。
 ですから、私が編集者になったときには、極力、漢字を減らして黒っぽくない紙面をめざします。
 流れのいい文章は、?平明そして明晰であること、?こころよいリズムがあること、?いきいきとしていること、?主題がはっきりしていること、である。
 文章修業は落語が役に立つ。二葉亭四迷が言文一体を書きはじめたときの先生役は落語だった。夏目漱石にも太宰治の作品にも落語の影響がある。そうなんですか、知りませんでした。山田洋次監督にも落語の影響がありますよね。
 動詞をもっと使いたい。うひゃあ、動詞ですか・・・。どうして、でしょう、なんて下手なダジャレはやめておきます。
 最後にリンカーンの言葉が誤って紹介されているという指摘に驚きました。リンカーンの演説は
 「人民を、人民が、人民のため」と訳する方が正しい。つまり、「人民の」ではなく、「人民を」と訳したほうが正しいというのです。
 人民が人民を統治するというのが主権在民の思想であるというのです。そう言われたら、そうですよね。
(2007年7月刊。780円+税)

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