弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年12月21日

カラ売り屋

社会

著者:黒木 亮、出版社:講談社
 日本経済の闇にうごめく怪しい奴ら、とオビに大書されていますが、この本を読むと、まさに、そういう人間が日本中にいる、いや、世界にまたがって動いていることを実感します。いやですね、おカネがすべてだと考える発想は・・・。しかも、動かしているお金が何億円なんていうものじゃないのですから、感覚がマヒするのも当然です。
 カラ売りとは、英語でショートセルと言うようですが、投資会社のやる一つの手法です。ウォール街にカラ売り屋が現れたのは1980年代初め。現在、アメリカにカラ売り屋が50社ほどいるとみられている。
 カラ売り屋は企業の弱点をつかみ、株価を下げたところで買い戻して利益を得る。したがって、企業の弱みをつかむ必要がある。どうやってつかむか?企業の裏情報が一番とれるのは、その会社を退職した人間だ。組織にしばられていないうえ、会社に対してうっぷん晴らしをしたいと思っていることが多い。そこでカラ売り屋は、日ごろから人材派遣会社やヘッドハンターにネットワークをはりめぐらし、その手の人物の発掘につとめている。
 なーるほど、ですね。でも、そのため、アフリカの奥地の危険なところまで状況を探りに行くというのですから、カラ売り屋稼業も大変です。
 「村おこし屋」には、公共工事をくいものにするヤクザと政治家の話が出てきます。公共工事は、その走行慈悲の3%から5%はヤクザと政治家に流れていくと言われています。この本でも、それを前提として話がすすんでいます。
 いま福岡県南部では暴力団の抗争事件が続いており、組長とか幹部とか、もう何人も暴力団員が殺されました。しかし、マスコミは、ことの本質を報道していないと思います。要は、利権争いなのです。公共工事からかすめとるお金をどっちが握るかということをめぐっての殺しあいが続いていると私はみています。ただ、これをマスコミが報道すると、その記者は生命の保証はなくなります。その意味では、日本社会は実は、昔も今も暴力団が強く支配する社会でもあるということです。
 最後の「再生屋」に若手弁護士が登場します。これは弁護士が企業再生の法的現場でどんな苦労をしているのかについて、かなり具体的イメージがつかめ、やったことのない私にも大変参考になりました。著者は相当深く勉強していると感心したことでした。
 著者はカイロ・アメリカン大学を出て、銀行や証券会社、総合商社につとめて作家になり、今はイギリスに住んでいるとのことです。なかなか面白く読ませる本でした。
(2007年2月刊。1600円+税)

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