弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年9月11日

偽装請負

社会

著者:朝日新聞特別報道チーム、出版社:朝日選書
 偽装請負の実態は、労働者派遣そのもの。しかし、請負契約を装っているので、労働者派遣法の制約は、すべて無視する。たとえば、派遣労働者だったら、一定の年限がきたら直接雇用の申し込み義務が発生するが、請負なので申し込まずに、同じ労働者を何年も都合良くつかうことができる。
 製造請負を管轄する役所がないので、偽装請負は野放しで増え続けた。仕事がヒマになれば、請負契約を打ち切って、一度にごそっと労働者のクビを切れる。不要の労働者を名指しでクビにする指名解雇も簡単。請負会社に一言、あいつを代えて、と言えば、次の日には別の労働者に変わっている。メーカーの正社員と会社が結んだ残業時間の協定にもしばられない。
 生産量にあわせて、労働力を増やしたり減らしたりできる偽装請負は、メーカーにとって麻薬のように危険で魅惑的だった。いったん使うと、中毒を起こし、手放せなくなる。
 健康管理や安全管理のほとんどを請負会社まかせにできるのも、メーカーにとって、ありがたい。自分の工場内で起きた労災事故であっても、その処理一切を請負会社がするものだから、メーカーの負担はない。
 日本経団連の御手洗会長はキャノン。キャノンはひどい偽装請負を続けて恥じない。大分キャノンで違法な偽装請負が行われていたことが、2005年、労働局の調査で発覚した。請負会社は、本来、独力で生産できる自前の設備やノウハウをもたなけらばならない。メーカーから、生産設備をタダで借りることは、モノづくりの能力を偽装するのと同じこと。適正な請負であれば、製品の出来高に応じて請負会社に代金を支払う。しかし、大分キャノンでは、実際に働いた人数と時間で支払額を決めるという契約だった。
 大分キャノンでは、朝日新聞の指摘したあとも請負労働者が増え続けた。2006年12月末、はたらく労働者は7000人。半年で1000人増えた。しかし、その大半が請負労働者だった。7000人のうち、7割の5000人が請負会社に雇われ、キャノンのために働いている。
 御手洗会長は、会長になる前、キャノンは人間尊重主義をとると高言しました。
 私は企業には社会的責任があると思う。人類との共生が企業の理念だ。人を大事にしろということ。キャノンは終身雇用という人事制度をとっている。
 御手洗がキャノンの経営者として終身雇用、人間尊重主義を説くことと、請負労働者を出来高払いで「採用」し、使い捨ての労働者を「雇う」のは矛盾しないか。
 御手洗は、その点を質問され、「全然、矛盾しない」と答えた。問題の労働者は、「うちの社員じゃないから」という理由だ。しかし、偽装請負は、れっきとした犯罪行為である。単なる企業倫理の問題ではない。
 ところで、製造工程のラインごとに指揮命令のできない一群の作業員がいて、本当に高い品質の製品をつくれるのか、はなはだ疑わしい。
 御手洗は、経済財政諮問会議で、請負法制には無理がありすぎるから改正すべきだという趣旨の発言しました。自ら違法行為をしておきながら、法律のほうを変えればいいんだというのです。まさに開き直りです。およよっ、と驚いてしまいました。人間尊重のカケラもそこにはありません。大企業の利益こそ万能であり、最優先すべきだというのです。
 こんな人が財界トップというのでは、日本の将来は、お先まっ暗です。アメリカに長く住んで大変苦労したと聞いていましたし、人間尊重・終身雇用を守るというので期待していたのですが、まったく裏切られてしまいました。私も、まだまだ人を見る目がなかったようですね。トホホ・・・。
 わが家のすぐ下の田圃では黄金の稲穂が頭を垂れはじめています。収穫の秋は、もうすぐです。庭に鮮やかな紅色の曼珠沙華が咲いています。酔芙蓉の花もようやく咲きはじめました。道端に白い見事なススキの穂を見かけました。昼には真夏の暑さが残っていますが、朝夕はめっきり涼しくなりました。子どもたちの運動会のシーズンが近づいています。
(2007年5月刊。700円+税)

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