弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年9月10日

加賀屋の流儀

社会

著者:細井 勝、出版社:PHP研究所
 プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選で、26年間にわたって総合1位を獲得しているという旅館があります。石川県の和倉温泉にある加賀屋です。
 私も、ぜひ一度行ってみたいと思っていました。昨年秋、加賀屋そのものではなく、その系列の「あえの風」旅館に泊まり、夕方、加賀屋を見学に行ってきました。木造の日本式家屋を想像していたのですが、実際には鉄筋コンクリート造りの高層旅館でした。泊まったわけではなく、せいぜい館内の土産品店をのぞいて少々の買い物をした程度で退散したのですが、人気ナンバーワンの香りだけはかいだ気がしました。
 加賀屋に行くのは決して簡単なことではありません。石川県能登半島の東側にある七尾市に和倉温泉はあります。はっきり言って、とってもへんぴな場所にある旅館です。ところが、年間の宿泊者はグループ2館で33万人。246の客室の稼働率が80%を上まわるというのですから、すごいものです。
 和倉温泉に来るお客は年間100万人。そのうち加賀屋グループ2館に3分の1の33万人が泊まる。和倉温泉の他の旅館は閑古鳥が泣き、地元商店街は閉店に追いこまれているという話を地元の弁護士から聞きました。加賀屋の繁栄は和倉温泉全体の底上げにはつながっていないようです。難しいところですね。
 客室係はマニュアルどおりに動くのではない。彼女たちは、お客を大浴場など館内を説明しながら客室に案内するまでに一人ひとりの客の背丈や身幅をそれとなく目測し、5センチきざみでそろえてある浴衣のなかからピタリと客の体にあうサイズの浴衣を選んで部屋へもってくる。
 加賀屋の客室係は165人。加賀屋に泊まると、夫婦2人だと10万円を見込む必要がある。だからこそ、求められるサービスの質は高く、サービスの種類も大きくなる。
 なーるほど、ですね。
 加賀屋は巨大旅館です。そのピーク時には一晩で1000食を調理し、供給する。そこで、料理のロボット搬送システムがあって、間違わない仕組みが出来あがっている。
 1500人ほどの収容能力をもつ加賀屋敷蒲団は3000枚。冬用と夏用がそれぞれいるので、常時6000枚という蒲団が必要。冬用の座蒲団は3000枚。夏用が1500枚。宴会場でつかう座蒲団が1000枚。ひえーっ、いずれもケタ違いです。
 土産物を売る売店が扱う商品は2100。旅館の売上げも全国ナンバーワン。加賀屋は、年に5回、3種類ずつ、部屋に出すお菓子を季節ごとに変えている。物販課のオリジナル商品だ。これは、すごーい。だから、土産物を売る店の実績単価は1人4000円を下回らない。うむむ、なんということ。これも、すごい、すごーい。
 一人ひとりのお客を大切にするという加賀屋は、実は、従業員をとても大切にしていると書いてあります。それが本当なら、すごくいいことですよね。そこで働く人が気持ちよく働いていれば、迎えられるお客も心が安まる空間が自然にできあがることでしょう。
 従業員のサービスがいかにもマニュアルどおりというホテルにぶつかると、いやなものです。私の定宿の一つとしている大きな外資系ホテルは、それこそ20年以上も通っていて、そこのゴールドカード会員になっているのに、このところホテルでチェックインするたびに、クレジットカードの呈示を求められます。まさしくマニュアルどおりです。誰でも一律にマニュアルを適用されると不愉快ですよね。それでも私がそこに泊まり続けるのは、朝6時からプールで泳げるからです。なぜか私の知る限り、内資系ホテルで、そんなに朝早くから泳げるところはありません。
(2006年9月刊。1680円)

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