弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年4月26日

人が人を裁くとき

アメリカ

著者:ニルス・クリスティ、出版社:有信堂
 裁判員のための修復的司法入門というサブ・タイトルがついています。ノルウェーの学者による本です。ノルウェー事情も少し知ることができました。
 日本とノルウェーは似ている。日本の人口10万人あたりの囚人は60人。ノルウェーは69人。いずれも極めて低い。ヨーロッパは通常、人口10万人あたり100人前後で、ロシアで569人という多さ。アメリカは、それよりもっと多くて、なんと763人。アメリカの刑務所人口を増やし続ける犯罪政策は、ナチスのホロコーストに類似していると厳しく批判しています。
 ノルウェーでは、民事事件は、市町村における調停を経なければ裁判所に訴えることができないという調停前置主義がとられている。これは江戸時代の日本と同じですね。
 ノルウェーでは、市町村ごとに刑事調停委員会がつくられており、主として少年犯罪を対象とし、一般市民から選ばれた調停員が斡旋することにより、加害者と被害者とが面談し、双方の合意が成立すれば起訴しないという刑事調停委員会が機能している。
 アメリカでは囚人は210万人いる。このほか、保護観察や仮釈放など監視下にある人々が470万人いる。それを加えると680万人となり、これは10万人のうち2267人にもなる。これは人口の2.4%を占める。青壮年の男性(18〜44歳)に限って比率をみると、なんとその12人に1人が刑罰法令の監視下で生活している。
 ロシアは囚人が減っている。2003年1月の囚人は86万人であった。
 なぜ、アメリカでこのように爆発的に囚人が増えているのか。その原因の一つに、アメリカ中産階級の功利主義的な世論がある。
 アメリカが犯罪が増加しはじめたのは1975年ころから。
 アメリカでは、ここ15年間ほど、毎年1000人規模の刑務所が1000ヶ所ほど増設されている。それにともない、刑務所関連の建設・給食・警備などの刑務所依存産業が急成長し、それが囚人数増加への加力団体となっている。
 刑務所が民営化すると、刑務所の公共的機能よりも、事業収入が刑務所産業に対する事業評価の基準となる。できるだけ少ない人員、経費、設備で、できるだけ多くの囚人を収容し、それを効率的に管理することが刑務所産業の目標となる。囚人数の減少は経営を悪化させる。犯罪があるから刑務所があるのではなく、刑務所があるから囚人が増加する。判断基準となるのは、犯罪人を放任した場合の犯罪取締の費用と、それを刑務所に収容した場合の費用との比較なのである。犯罪は、もはや矯正の対象ではなく、戦いの対象となり、隔離すること自体が目標となっている。
 犯罪処罰手続は効率化され、刑罰量定表がつくられている。そこでは刑罰を緩和する事情は一切考慮されず、逆に犯罪状況はすべて刑罰を加重する事情として考慮される。
 アメリカには選挙権をなくした成人が390万人いて、そのうち140万人は黒人である。これは黒人男性の13%にあたる。彼ら貧困層は選挙権を行使できないため、政治に対する影響も行使することができない。
 アメリカでもイギリスでも、自らを、あるいは自分の党を、犯罪と戦うリーダーであると誇示するための激しい競争がある。通常、政治家や政党は、お互いにより厳しい手段を主張しあうのが政策になっている。ほかに残っている見せ場がほとんどないからである。犯罪との戦いが政治家の正当性を主張するのに不可欠となっている。
 アメリカは世界でもっとも富める国である。にもかかわらず、福祉の代わりに刑務所を用いる国である。たえず自由について語る国でありながら、世界最大の刑務所を有している国である。
 アメリカみたいな国に日本をしてはいけないとつくづく思います。悪いことをした連中はどんどん刑務所に入れてしまえばいいんだ。こういう考えを持つ国民は多いと思いますが、それはすごく危険です。だって、みんないずれ出てくるんですよ。お隣さんが社会への復讐心に燃えていたらどうしますか。やっぱり、いろんな人がいるわけなんですから、それなりに折りあいをつけて生きていくしかありません。
 わが家の庭のチューリップは終わりかけ、今はアイリスがたくさん咲いています。青紫と白がほどよく調和した心優しいアイリスのほか、元気溌剌な真っ黄色のアイリスも咲き出しました。ジャーマンアイリスもようやく咲きはじめました。青紫の気品のある花です。アイリスより一段と豪華な雰囲気です。福岡県弁護士会館の通用口のそばに咲いているのは、わが家の庭から持ってきたものです。今が見頃ですから、ぜひ見てやってくださいね。朝、自宅を出るときにはフェンスに咲くクレマチスに向かって、行ってきますと挨拶しています。赤紫色の花です。春はいろとりどりの花が咲いて、いい気分です。

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