弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年3月20日

証券詐欺師

アメリカ

著者:ゲーリー・ワイス、出版社:集英社
 振り込め詐欺の黒幕が暴力団だということは、五菱会事件における暴力団山口組との結びつきが明らかになって、今では広く知られています。
 先物取引や株式取引の仕手戦その他のインチキ取引でも暴力団が絡んでいると思われますが、その確証はまだまだ十分とは言えません。
 この本は、アメリカの証券業界(ウォール街)における詐欺商法がマフィアの資金源となっていたことを明らかにしています。読めば読むほど、おぞましい手口です。こうやって、日本でもアメリカでも、お人好しで無知・善良な市民が大金を欺しとられているのですね。
 ノドから手が出るほど金に飢えているルイスのような人間が、大金を手に入れるには、お金は既にたっぷり持っているかのような見てくれが肝心だ。腕時計はプラチナ仕上げのロレックス・プレジデンシャル。文字盤の周囲にダイヤがはめこまれた逸品だ。1万  7000ドルはする。スーツも一着2000ドルするのを仕立てた。
 しゃべり口調はニューヨークの下町なまり丸出しだが、物腰は丁寧で、そつがなく、辣腕ブローカーというそぶりはみじんも見せない。初めて会う人は、その整った身なりと、物腰に上品さを感じる。
 狙ったお客と話すときには、物理的な接近が親近感を生む。親近感は大金を引き出すのに必要不可欠だ。財布の口をこじ開けるのにつかうのは舌先三寸のみ。
 小企業の超低位株を扱う証券会社をチョップハウスという。外から見る限り、普通の証券会社と何ら変わらない。バケツショップとは無認可営業のブローカーのこと。
 1990年代のアメリカにおいて、チョップハウスの詐欺行為は前代未聞のスケールで、しかも公然と行われた。その収益は年間100億ドルにのぼると見積もられた。
 チョップハウスとバケツショップは、ウォール街の公然の秘密だった。
 マスコミの餌食になるな。世間の注目を浴びるのは禁物。
 ボールドルームは、普通は役員室を意味する。しかし、いわゆるクズ株を商うチョップハウスでは、ブローカーや電話勧誘係が詰めている大部屋だ。
 朝7時から夜11時まで休みなしで働く。電話をじゃんじゃんかけまくる。
 これはセールスの電話じゃないと、真っ先に告げる。「今日お電話したのは、いずれこちらからとっておきの情報をお知らせできるよう、お宅様がどういった投資に関心がおありか、うかがおうと思いまして」と言う。簡単な仕事だ。要は、相手の心を開かせ、話を聞く気にさせて、ブローカーに受話器を渡せばいい。
 相手が興味がないとか言ったら、さっさと電話を切る。そして30秒してもう一回電話をかける。
 「さっきは失礼しました。こんな有利な話をお知らせしておきながら、あっさり引き下がるなんて、どうかしてましたよ。絶好のチャンスです。・・・」と、とにかく相手が買う気になるまでしゃべりまくる。
 いやあ、これって日本でもまるで同じ手口ですよね。というか、アメリカの手口をそのまま日本に輸入したのですね。
 投資家連中のお間抜けぶりは不治の病だ。個人投資家なんてのは、馬鹿ばっかりだ。
 顧客リストは、大手会社のそれを横流ししてもらう。
 電話一本で、相手が何者かもわからないのに、100万ドルを見ず知らずの人間にほいほい送ってくれるんだ。売っては買い、売っては買いをどんどん差し引いていく。残高が3万ドルまでいったところで、あとはごっそり手数料の形でパクってしまう。
 あれあれ、これも日本の先物取引のだましの手口そのものですね。
 3000人に電話して、2000人は引っかかる。こんな楽な商売って他にない。名簿にはずいぶんお金をつかった。数千人分だと1万ドルかかることもある。ひとりあたり2ドル払ったこともある。
 ブローカー何人かで組んでワラントの相場を操縦した。それで、誰をもうけさせ、誰をカモにするかは、ルイスの胸三寸だった。誰もが得をする。そんなバカな話があるはずもない。お金には必ず出所がある。
 ルイスはお客を無名人と有名人の2種類に分けた。狙いはセレブから何百万ドルもの大金を引き出すことにある。彼らをおびき寄せるには、餌がいる。取引で損をかぶるのは常に無名人で、セレブは常に勝ち組にまわる。
 客なんて特別扱いにされたい奴ばっかり。あんたがいちばん大切な客だって持ち上げとけばいい。
 本気で大もうけできると信じている連中のお金を巻き上げるから、ときには後ろめたくなることもある。そんなときには、何を今さらくよくよしているんだ、ほいほいお金を送ってくるような間抜けが相手なんだから、気にすることなんかないと、自分に言い聞かせるんだ。
 こうやってルイスは20歳で巨額のお金を手にします。そして、それにマフィアが目をつけ、ルイスの上前をはねるのです。一度マフィアに頼ったら、もう抜けることは出来ません。
 マフィアは刑務所暮らしをなんとも思っていない。受刑という代償を払うからこそ地位と権力と自由をほしいままにできる。だから、誰かが他人様から盗んだお金を平然と巻き上げる。
 ウォール街にひしめくブローカー業者は、特定のファミリーに牛耳られてはいない。ウォール街で重要なのは個人対個人の関係、つまり、どのマフィアとどのブローカーがつながっているかだけ。
 チョップハウスで働く若者やマフィアを潤していたマネー・ロンダリングは、主にロシア出身のユダヤ人とイスラエル人の手で行われていた。
 バケツショップは、客からお金をただ取りするだけで、株を仕入れてもいない。書類もあまりつくられない。書類がなければ犯罪の証拠もないから、取り締まりようもないということだ。
 この本を読むと、マフィアがアメリカからなくなったなんてとんでもないということがよく分かります。それは、まるでウォール街全体をマフィアが裏から動かしているように見えてくるほどです。日本の株式市場の仕手戦にも暴力団の影が見え隠れしていますので、アメリカも日本も同じことなんでしょうね。それでも、ホントいやになりますよね。

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