弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月24日

滅びゆくアメリカ帝国

著者:高野 孟、出版社:にんげん出版
 イラク戦争の失敗に気がついたアメリカ国民はブッシュ共和党を敗退させました。武力一辺倒のネオコン一派は総退場で、残るは親王ブッシュのみとなりました。でも、ブッシュの言いなりだった小泉首相と、その後継者である安倍の方はまだ何の教訓も引き出さず、開き直って逃げ切ろうとしています。そして、それを許してしまうマスコミの不甲斐なさに歯がみする思いです。
 石油屋出身のチェイニー副大統領と、軍産複合体マフィアの戦争好きラムズフェルド国防長官の強硬派コンビをユダヤ系中心の実権派スタッフが支え、それが在米ユダヤ人ロビーを経由してイスラエル右派につながっているというネオコン支配の病的な構造がある。裏を返せば、イスラエル右派がネオコンを通じてホワイトハウス中枢にまで浸食して暗愚の大統領(もちろん、ブッシュのこと)を操作する仕掛けは不変である。
 2003年のアメリカの経常収支赤字は5400億ドルで、80年代末の4倍、対GDP比で5%をこえた。国全体の消費と投資を貯蓄ではとうていまかなえず、2004年度で5000億ドル近い空前の財政赤字を出してもまだ足りず、1日あたり15億ドルずつ外国から借り入れしている有り様だ。今後10年間の財政赤字は5兆ドルに達すると見込まれている。
 アメリカの国債残高は、過去4年間に7860億ドル増えて1兆8400億ドルに達した。その増加分の半分以上の4040億ドルを日本が引き受けた。その結果、外国のもつアメリカ国債の4割にあたる80兆円は日本がもっている。それが単なる紙切れと化すリスクについて、日本政府は国民に説明していない。これって恐ろしいことですよね。
 絶対君主制のサウジアラビア、国家テロの常習者であるイスラエル、強権政治のパキスタンやウズベキスタンは、アメリカのいう「ならず者国家」のリストには入っていない。それは対テロ戦争でアメリカに協力しているからだ。
 アフガニスタンとイラクに対する派手な戦争は、アメリカの強さではなく、弱さの表れだ。経済的にみて、アメリカはモノもカネも全世界に依存して生きるほかなくなっている。それを維持できなくなる不安から、ことさら好戦的な姿勢をアメリカはとり、自国が世界に必要不可欠な存在であることを証明しようとしている。
 著者はこの指摘に同感だとしています。私も、なるほど、と思います。
 ある統計によると、イラクの夫婦650万組のうち、200万組がスンニ派とシーア派の組みあわせだ。また、それらのどちらかとクルド人の取りあわせも少なくない。彼らは、もちろん殺しあいを望んでいない。ひゃあー、そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。どこでも戦争を挑戦したがる好戦的な人間はいるものなんですよね。
 大多数のアメリカ人は、なぜ自分の国アメリカがイスラム世界で、これほど憎まれているのか、まったく理解できていないし、しようとしていない。しかし、日本人はそれを笑うことはできない。東南アジアで日本がどう見られているか、について日本国内にいる日本人も同じく無知なのである。アメリカ人とまったく同じこと。日本人に自覚がなくても、日本は世界第4位の軍事大国なのである。だから、安倍内閣は防衛省へ昇格させようとしているのです。
 アメリカは世界最大の武器輸出国である。いわば最大の死の商人なのである。あー、やだ、やだ。こんなアメリカに追随して一緒に滅びるなんて、まっぴらごめんです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー