弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月 2日

ドイツ病に学べ

著者:熊谷 徹、出版社:新潮選書
 ドイツは世界最大の輸出国。EUのなかでも最大のパワーを誇っている。ユーロは、今やドルと円に並ぶ第三の基軸通貨としての地位を確立した。2005年以降は、中国や中東、日本の機関投資家がドル偏重を改めて、ポートフォリオの多角化を図るために、ユーロを積極的に買っている。
 ドイツからの輸出の44%はユーロ圏向け。ユーロ導入によって為替リスクを減らし、域内での競争を高めるので、ドイツ企業に利益をもたらす。今後、ユーロ圏が拡大すればするほど、最大の輸出国ドイツにとっては有利になる。
 ドイツの2004年の自動車生産台数は557万台で、アメリカ、日本に次いで世界第3位。ドイツ企業の強みは、プラントや工作機械、環境関連技術の輸出である。
 ドイツの電球は寿命が長いので有名だし、ドイツの平気は今も外国に人気がある。
 2005年には、ドイツのGNPの成長率は、わずか0.9%。日本は2.7%だった。
 ドイツの財政赤字は2002年から4年連続してGDPの3%をこえ、基準違反国となった。ドイツの失業率は12.7%、失業者は529万人。1994年以降、失業率が10%をこえる状態が12年間も続いている。
 国土の面積は日本と同じくらいで、人口は日本より35%少ない。旧ドイツの人口は、統一からこれまでに150万人も減っている。12年間でも120万人減っている。2005年ころから、国内で仕事が見つからないので、スイス、オーストリア、オランダ、デンマークなどへ移住するドイツ人が急増している。
 ドイツはストライキが最も少ない国として有名だった。労働者に強い発言権を与える制度が、労使間の情報交換とコンセンサスにもとづく決定を促進し、ストライキによって労働時間が失われるのを防いできた。
 離婚件数は1991年に14万件だったのが、2003年には57%も増えて21万件となった。
 1900年に制定された閉店法が今も生きている。ただし、今では平日は夜8時、土曜日も夕方6時まで買い物できる。もっとも、日曜日は、今でもパン屋やガソリンスタンドを除くと原則として禁止されている。
 ドイツでは、売春も合法的なビジネスとして認められている。売春婦には、年金、失業保険、健康保険などの社会保険の対象とする法律がある。つまり、売春婦も社会保険料や税金を払わなくてはならないかわりに、失業したら別の仕事につくための職業訓練を受けられる。
 ドイツのホームレスは、2002年に37〜45万人いる。貧困層は1,100万人。
 自己破産は、2005年に4万9000件。2006年には6万6000件。その主な理由は、失業、クレジットカードのつかい過ぎ、離婚。300万世帯が債務超過に陥っているとみられている。ドイツの自殺者は1万2000人。日本は3万人で、人口10万人あたりにすると23.6人。これに対してドイツは14.5人。
 年収1億4000万円をこえる市民が1万2400人いる。国民の0.02%。日本は、140万人で、国民の1.1%。所得格差は、日本の方が格段に大きい。
 この本は、日本とドイツの社会の状況を大変よく分析していると思いましたが、NHK記者だったせいでしょうか。今の日本のマスコミ論調とまったく同じで、何でも自由化を礼賛し、労働者保護の諸立法を経済発展の障害とみる傾向が強すぎます。私には、それがいささか気になりました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー