弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月20日

ヒバクシャになったイラク帰還兵

著者:佐藤真紀、出版社:大月書店
 ジェラルドは1974年に、カリブ海の島で生まれ、アメリカに移住した。貧しい家族に負担をかけずに教育を受けるために軍隊に入り、軍からの給付金で大学にすすんだ。ジェラルドはイラクに派遣され、5ヶ月後から、1日に5〜8回、針で刺すような激しい偏頭痛に襲われた。
 アメリカ兵で体内に劣化ウランが確認されたのは、サマワに駐留していた兵士たちだった。サマワでは、開戦直後の一週間に激しい戦闘が行われた。劣化ウラン弾は、戦車が爆発するときにウラン酸化物の微粉末を発生するので、弾頭が命中した戦車は、戦場での放射線の大きな発生源になる。戦車が人に近いところにあればあるほど、微粉末を吸いこむ危険は大きくなる。
 オランダ軍の分遣隊がアメリカ兵と交代するために、サマワに到着した。オランダ兵はガイガー・カウンターで宿営地の周辺を調べ、放射線のレベルが高いことが分かったので、宿営地にとどまることを拒絶し、かわりに砂漠に野営を張った。ジェラルドの娘が生まれたとき、赤ちゃんの右手には、通常の子どもよりずっと短くて小さい指が2本だけあった。劣化ウランの影響だとしか考えられない。
 そこでジェラルドは、2005年9月29日、アメリカ合衆国陸軍省を相手に損害賠償を求める裁判を起こした。1人あたり500万ドルを要求している。
 イラク戦争でのアメリカ兵の犠牲者は2500人(2006年6月)をこえた。傷病兵は数万人にのぼるとみられている。
 そもそもアメリカ軍は、劣化ウランの危険性を熟知していたうえで、使用している。放射線によるガンの発生は、細胞分裂が盛んに生じている個体ほど生じやすい。つまり、細胞分裂が盛んな成長過程の胎児・乳幼児は成長のストップしている成人よりも、放射線によるガン発生率が上昇する。
 イラクからの帰還アメリカ兵には、湾岸戦争シンドロームといわれる病気がはびこっている。1990年8月から2002年5月までに、22万1000人の帰還兵が障害者と認定され、1万人以上がすでに死亡している。ちなみに、戦闘での死亡は145人、うち35人は自軍の誤射による。
 ミシシッピー州での調査によると、251人の湾岸戦争からの帰還家族で、戦争後に妊娠して生まれた子どものうち67%が重度の疾患にかかり、先天性の傷害をもっている。それは劣化ウランによる影響の可能性が強い。
 イギリスは、イラク駐留兵に対して、あなたは劣化ウランが使用された戦場に派遣されています、という警告カードを配っている。では、日本ではどうしているのでしょうか。
 サマワにいた日本の自衛隊員の今後の健康が本当に心配です。

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