弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月 6日

社長の椅子が泣いている

著者:加藤 仁、出版社:講談社
 一代で大企業をつくりあげたオーナーの前では、立派な実績をあげた有能な社長であっても、簡単に社長を解任されることがあるのですね。オーナーは可愛い我が子を企業の存続・発展を無視してまで優遇してしまうのです。まるで豊臣秀吉の世界です。その理不尽さに呆れてしまいました。
 舞台は静岡県の浜松市です。ここにホンダとヤマハが生まれました。ホンダの社長とヤマハの社長とが兄弟だったなんて、ちっとも知りませんでした。当事者も、それぞれの社員の手前、それを隠していたそうです。実の兄弟であり、ケンカしていたわけではなく、むしろ仲は良かったのに、公然と会うのは遠慮していたというのですから、やはり世間の目はそれだけ厳しいということですね。
 この本の主人公は、46歳でヤマハの社長になった弟の方です。アメリカにも6年半いました。ただし、社長の在任期間はわずか3年あまりで、ある日突然、オーナー(創業者)に解任されてしまったのです。
 会議をやれば、人間の能力がわかるんだよ。だれが馬鹿か、だれが利巧かね。
 組織の最高権力者からこのような牽制球を投げられると、管理職は萎縮し、プレゼンテーションひとつとっても、権力者の気に入るようにするのが会議の主流となる。
 ヤマハにおける川上源一は、実は、創業経営者でもなければ、オーナー経営者でもなかった。川上一族が所有する日本楽器の株式を合計しても3%にみたず、いわゆるサラリーマン経営者である。それでも源一が社長そして会長と30年にわたって君臨しえたのは、親が東大「銀時計」であるという出藍の誉れ、昭和30年代までのリーダーシップ、後継者候補を切り捨て続けた人事操作、くわえて自分を「殿さま」と思ってはばからない個性によるものだった。なるほど、そういうことだったのですかー・・・。それにしても、企業を私物化するエセ・オーナーって怖い存在ですね。
 徹底したマニュアル化は、人間のロボット化にほかならず、ノー・シンキングの社員を輩出することになりかねない。必要なのは、自分で問題を発見し、解決する人材である。
 河島博はヤマハ社長を解任されたあと、ダイエーの中内功に請われてダイエーの副社長に就任しました。ダイエーの建て直しに功績をあげ、続いてリッカーミシンの再建に力を注いだ。ところが、中内功に追放されてしまうのです。
 企業における社長の椅子がこんなにも重く、また軽いものなのか、驚き呆れながら500頁近い大作を読み通しました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー