弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月11日

動物感覚

著者:テンプル・グランディン、出版社:NHK出版
 大いに目を開かされる本でした。自閉症をもつ動物科学者が動物の行動と感覚を分かりやすく解説した本です。なるほど、なるほど、そうだったのかー・・・と、思わず何度もうなずきながら読みすすめていきました。440頁の大部な本ですが、おもしろさと未知の発見でドキドキしてしまう本です。
 著者は自閉症のおかげで、動物に関して、ほとんどの専門家とちがった見方ができる。動物は私たちの思っている以上に賢い。長年、動物とともに暮らしていながら、私たちが動物の特殊な才能に気づかない理由は簡単だ。その才能が見えないということ。
 自閉症の人は絵で考える。頭の中では、まったくといっていいほど、言葉はめぐっていない。次から次へとイメージが流れているだけ。
 動物は明るい場所から暗い場所に移動するのが大嫌いだ。とても大事なことは、動物は目に見える世界にきわめて敏感なこと。
 ふつうの人の知覚系統は、見慣れているものを見るようにつくられている。
 動物であれ人間であれ、目で見て考えるタイプは、こまかいことにこだわる。動物は細部にこだわる。自閉症の人も、ものの全体よりも細部に大きく注意を向けている。動物と自閉症の人は似ているところがいくつもある。
 牛がなにか目新しいものに自分から近づいていくのは、好奇心があるから。動物はみな好奇心が強い。遺伝子に組みこまれている。好奇心が強くなかったら、必要なものを見つけたり、不要なものを避けたりするのに苦労する。好奇心は用心の裏返しだ。
 自閉症の人は、ほとんど常に音に対する鋭い感受性で苦しんでいる。大量の音から受ける影響を説明しようと思ったら、太陽を直視することにたとえるしかない。ふつうの人には聞こえない音を聞いている。たとえば、となりの部屋であめ玉の包みをはがす音が聞こえる。
 人間は意識して気づいている以上に、たくさん知覚している。不注意による見落としとしては、頭脳処理の高度なレベルで起きる。脳は、なにかを意識に送りこむ前に、数多くの処理をおこなっている。ふつうの人の脳は知覚情報が入ってくると、その正体を突きとめ、それからようやく人に情報を伝えるかどうかを、その重要性によって決定する。つまり、知覚情報を人が意識する前に脳がすっかり処理しているのだ。
 ふつうの脳は、人が望んでも望まなくても、関心のない細部を自動的にふるい落とす。自閉症の人は違う。ふるい落とすことができない。身のまわりの何千億という詳細な知覚情報が意識のなかに入りこんできて、圧倒される。めくるめくような大量のこまかい情報だ。自閉症の人は、ほかの誰も見たり、聞いたり、感じたりできないものを、見たり聞いたり感じたりしているのだ。
 動物と人間の情動の大きな違いは、動物には人間のような心の葛藤がないこと。動物は相反する感情をもたない。動物同士や人間と愛憎関係にはならない。動物は忠実だ。人を好きになったら、とことん好きだ。外見や収入など気にしない。子どもの情動も、犬の情動のように率直で、忠実だ。
 自閉症の人の感情も、ほぼ単純だ。自閉症の人の気持ちは、動物の気持ちと同じように率直で赤裸々だ。自分の気持ちを隠さないし、気持ちにゆれがない。
 動物は人間がもっているような複雑な情動を恐らくもっていない。
 脳の探索回路が活発になるのは、ついに食べ物を見つけたとき、あるいは食べているときではなく、食べ物を探しているあいだだ。探索それ自体に快楽を覚えるのだ。動物と人間は食べ物探しを楽しむようにつくられている。だから狩猟家は、殺した動物を食べるわけでもないのに狩猟を楽しむ。猟をすること自体が好きなのだ。
 遊びには新皮質がまったく必要でない。人間の子どもは誰でも成長して前頭葉が成熟するにつれて、だんだん大はしゃぎをしなくなる。前頭葉が支配的になるほど、「まじめ」になり、遊ばなくなる。
 ラブラドールは、ニューアゥンドランドの作業犬だった。氷のような水中にとびこんで漁網から魚をとってこなければならなかった。ラブラドールは水中で、魚をつかまえようとして、がむしゃらに水をかく。ラブラドールは奇妙な犬だ。恐怖心があまりなく、攻撃性が低く、社会性が高い。しかし、これは正常な組み合わせではない。
 犬をしつけるもっといい方法は、胸やおなかをくすぐったり、なでたりして、犬にとって楽しいゲームをしながら寝ころがせ、そのときに餌を与えること。こうすれば、犬は何もいやなことをされずに服従の姿勢をとる。動物に新しいスキルを教えるために罰を与えるのはよくない。ほとんどすべての場合、肯定的な方法をつかえば、動物に芸当を覚えさせたり、スキルを伸ばしたりする訓練ができる。
 犬が人間と暮らすようになったのは、人間が犬を必要とし犬も人間を必要としたから。人間と犬の関係だけでなく、自閉症の人を動物と比較することによって、人間とは何か、どういう存在なのか、もうひとつ認識が深まった気がしました。

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