弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年8月23日

異端の大義(上)

著者:楡 周平,出版社:毎日新聞社
 組合の執行部に選出される社員は,選挙で選ばれることになっているが,候補者については前任者から事前に人事部の了解を取り付けることになっている。何しろ組合執行部には,表にできない会社の秘密といえる情報を見せることになるからね。とくに,委員長・書記長・賃金部長といった団交前の事前交渉の席に着く三役は,将来の幹部候補生と目される人間があたることになっている。
 組合執行部の役職にある者には,それぞれに自由裁量でつかえる予算枠が認められている。書記長は2000万円,賃金部長は500万円。教宣部長でも400万円。
 組合との団交は出来レースということ。団交なんて、儀式。ベースアップやボーナスの額は三役と人事との間の非公式の事前交渉で、おおよその落としどころが決まる。あとは、連中の面子を立ててやるような形を整えてやればいい。なにしろ,事務・技術職からは月5000円,一般職からは月3000円の組合費を徴収している。シビアな交渉の末に,少しでも要求に近い条件を勝ちとったということにせんと,格好がつかんからね。
 日本の企業内組合のほとんどがこのような実情にあるようです。これが,結局のところ,会社執行部の独走を許し,無法地帯を会社につくってしまったように思います。少数・異端者に対して排除の論理でのぞんでいると、結局のところ、日産のように最後には企業そのものの存立が危うくなってしまうのだと私は思います。最近発覚したトヨタの欠陥車隠しも同じことだと思います。
 日本の労働組合に存在感がなくなってもう20年以上になります。30年前の国鉄のスト権以来,日本ではストライキが死語になってしまいました。私にはそれでよいとはとても思えません。非正規労働者の増大は企業にとっても本当に喜んでいていいのですか。職場の団結力と活力を阻害しているのではありませんか。
 余人をもって代えがたい仕事なんて,どこの会社にもあらへんよ。誰かがいなくなれば,その後を継ぐ者が出てくるもんや。私も,そのとおりだと思います。ポストにすわると,たいていの人はポストにふさわしい活動をするものなのです。私も実例をたくさん見ています。
 有力取引先からの縁故入社は,いわば人質。業務のうえで戦力にならなくても,別の点で会社の業績に貢献することは事実。この典型があの有名な電通だということは前に紹介しました。
 田舎では高校時代に成績のいい者の多くは,一番近くにある国立大学の教育学部を選ぶ。東京の名だたる一流校に入る実力があるのに。そして,大学を卒業すると,大企業への就職など念頭になく,故郷に戻って教員か役場の職員を目ざす。なぜなら、企業に入って夢をかなえられるのは,ほんの一握りでしかない。少ない可能性に賭けるより,確実かつ安定した道を選ぶ。
 組織に身を置く者の一人として会社側に立つのか,あるいは苦楽を共にしてきた仲間の側に立つのか自分の立場を明確にして事にあたらないと,苦しい思いをするだけでなく,双方に無用の混乱をもたらす。
 会社のなかには,常に理不尽ともいえる決断を迫られ,それを実行することを命じられている人間がいるものだ。それを乗り切れなければ,次に切られるのはあなただ。
 会社の方針にしたがって東北の工場を閉鎖する任務を命じられたエリート社員の苦悩が伝わってくる本です。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー