弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年8月 3日

赤ちゃんは世界をどう見ているのか

著者:山口真美、出版社:平凡 赤ちゃんはもっとも身近にいる、未知の生命体だ。
 なーるほど、そうなんですよね。これは3歳未満の体験を誰も何ひとつ語ることができないということからくるものにもよります。
 姿形は私たちと同じ人間ではあっても、何を見て何を考えているか、まったく分からない。私たちの近くにいるにもかかわらず、赤ちゃんは別世界の住人なのだ。
 赤ちゃん学は、この30年ほどですすんだということです。ちょうど私の弁護士生活と重なっています。少しは私の認識も進歩したでしょうか・・・。実はまったく心もとないものがあります。クライアントには決してそんなことは言えませんが、実は法律の知識がかなり怪しくなってきているのです。今では絶えず弁護士になりたての若手に確認しておかないと不安です。ホントのことです。いえ、なにも若年性のアルツハイマーにかかったと「告白」しているのではありません。ちょっとでも縁が遠くなると、その分野についての知識が急速に忘却していくということなんです。これは、まったくの自然現象です。少なくとも本人はそう考えています。
 先天性の白内障を手術して治したとき、どうなるか。よくても色が分かる程度で、形や景色を読みとるには、ほど遠い。つまり、網膜に光が到達しただけでは世界は見えない。風景も文字も、実は、あらゆるものが、見るのはとても難しいこと。眼があるというだけで、見えることにはならない。
 胎児のときから音を聞き、生まれた直後でも眼が見える。生まれたばかりの新生児の視力は0.001程度。生後半年でも0.2程度の視力しかない。眼の水晶体(レンズ)の焦点は大人にあわせてできているので、赤ちゃんの小さな眼球にはあわない。レンズの焦点は眼球が成長したときにあうよう、網膜のうしろで結ばれるようになっている。
 見る経験は、受け身の状態ではムダだということが分かっている。自ら積極的に環境に関わりながら見ることが必要なのだ。動きを見ることは、形を見ることとはまったく異なるものだ。脳の異なる部位が働いている。
 赤ちゃんには、目新しいモノに注目し、見慣れたモノには注目しないという特性がある。赤ちゃんにとって、人間の顔は、目や鼻、口といった部分ではなく、それらが並ぶ配置こそが大切なのだ。たとえば、赤ちゃんは、生まれてから2日間、母親の顔を見た時間が11時間から12時間を超えると、お母さん顔を好むようになる。これも、生まれたばかりの赤ちゃんをじっくり観察して分かったものなんです。学者ってすごい忍耐力と想像力を必要とするんですね。
 ところが、ニホンザルは、育てられた種の顔を好む。たった3時間の見る経験で、お母さん顔への好みが成立する。ヒトの6倍の速さだ。すごーい。
 生後3ヶ月の赤ちゃんは、サルの顔もヒトの顔も同じように分けへだてなく個体を区別する能力がある。しかし、生後7ヶ月になると、大人と同じように、サルの顔では個体の区別はできなくなり、ヒトの顔だけを区別するようになる。これは母国語の習得に似ている。生まれてすぐの赤ちゃんは、あらゆる言葉の母音を聞き分ける能力をもつ。ところが、生後10ヶ月になると、自分の母国語を聞き分ける能力だけを残し、他の言語の母音は聞きとりにくくなる。
 学習とは、何でも受けいれた段階から、自分の環境にあるものへと特化することをさすのだ。なーるほど、そうだったんですか・・・。社新書

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