弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年7月31日

きみのいる生活

著者:大竹昭子、出版社:文芸春秋
 いやあ、とっても面白い本でした。あの日頃嫌われもののネズミが、こんなにも人間に似た動物だったなんて、ちっとも知りませんでした。
 パソコンのパーツを買いに行った夫が、目ざすパーツを見つけられずに、帰り道にマウスではなく本物のスナネズミをペットショップで買ってきたのです。そのスナネズミのしぐさの可愛いらしいこと。まるで人間そっくりなのに、ついつい笑ってしまいます。
 漢語に鼠牙雀角(そがじゃっかく)という言葉があるそうです。まったく知りませんでした。ネズミの歯とスズメのくちばしという言葉ですが、訴訟沙汰を意味します。費用がつもりつもって家が破産するさまを、ネズミの歯やスズメのくちばしが壁を屋根を傷めるさまになぞらえた言葉です。弁護士である私にとっては、少し複雑な心境になります。
 初代クロは、著者が畳に座っていると、そばにやってきて、「ねえ、ちょっと」と言いたげにその膝に手を置く。いかにも人恋しそうな様子で、足とちがって手が気持ちを伝えるものであることを伝える。
 寝そべっているときとは違って、好きなことに集中しているときの目はピカピカと光り、動きは躍動感にあふれて生き生きしている。上手だねえ、とほめようものなら、ますます得意そうになる。「目を輝かせる」という表現があるが、目の動きと意識の関係に文字どおりの意味があるのに感銘する。初代クロは、感電してあっけなく死んでしまいました。本箱の裏にもぐりこんで電気のコードをかじってしまったのです。
 二代目のクロを飼いました。性格がまるで初代と違うのです。たとえば初代はパンが大好きでしたが、二代目はまったく無関心でした。初代のクロは無鉄砲で、自分の思うように動かないと気がすみませんでした。二代目クロは用心深く、いろいろな予測を立てながら慎重に行動します。
 このスナネズミはモンゴル生まれです。「動物のお医者さん」に出てくるネズミだそうですが、私は読んだ覚えがありません。私は本が好きですから、子どもたちにもたくさん絵本をよんでやりました。ネズミの出てくる絵本は何冊もあります。いわむらかずおの「14ひき」シリーズ(童心社)の絵もいいですよね。「のばらの村のものがたり」シリーズはイギリスの絵本です。家庭内のこまごまとした食器類などもよく描けています(講談社)。斎藤惇夫の「冒険者たち・・・ガンバと15ひきの仲間」(岩波書店)は、珍しいことにドブネズミのガンバが主人公です。男の子のたくましさを感じました。子どもたちに読み聞かせた本は、今も大事に全部とってあります。押し入れなんかでなく、居間のすぐ身近なところに置いています。孫でもやってきたら、また読んであげようと思うのですが。
 三代目モモは、鏡の前をとおるときには、必ず立ち止まって自分の姿を眺めいる。自分を美しいと感じているらしい。毛づくろいにも念が入っている。まず手先で口のまわりを丹念にふく。しだいに範囲を広げて顔ぜんたいをなでつけ、次に頭を下げて両手を首のうしろにもっていき、毛をはらう。まるで人間がシャンプーしているときの格好にそっくりだ。
 しらばくれる、という感情は動物にもあって、悪いことをしたあとには、決まって、しらっとした顔をしている。
 三代目モモは、マッサージされるのを好んだ。自分でマッサージしてもらいところを指示する。こる場所は人もネズミも変わらない。やめると、つむっていた目をパチッとあけて、もう終わり?という顔をする。なんと・・・!
 三代目のモモは老衰で死んだ。スナネズミの寿命は3年。
 そのあと、つがいのスナネズミを飼って、とたんににぎやかになりました。一匹一匹がとても性格が違うのですが、それを著者はよく観察していて、笑わせますよ。
 新しいことを試してみるのは、つねに女なのです。
 ごはんが苦手のネズミがいます。あのネバネバした感触がダメなのです。チーズも食べるのと食べないのがいます。いやー驚きです。
 アポ計画で生物衛星にスナネズミも乗ったそうです。
 ネズミも心身症にかかる。イジメにあうと、太ったからだがみるみるうちにしぼみだし、毛のつやもなくなり、このまま衰弱して死ぬ日も間近いとまで思われた。
 最高時には13名(匹ではありません)のスナネズミを飼った観察記録です。写真もあり、飽きない面白さです。集団で飼うと、また違った意味で人間臭くなるというのも一興です。
 きのう(日曜日)の早朝、母が亡くなりました。93歳ですので、天寿をまっとうしたと思います。父は25年前に亡くなりました。母の伝記を読みものにするのが途中となっていますので、これから完成をめざします。時代背景をふまえて人の一生をあとづけるというのは自己認識がとても深まります。蝉がうるさく鳴く真夏の一日でした。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー