弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月23日

犯罪統計入門

著者:浜井浩一、出版社:日本評論社
 犯罪を科学する方法、というサブタイトルがついています。このごろ日本では極悪犯罪ばかりだ。戦後いちばん少年非行が多い。こんな話がマスコミなどで多いように思いますが、事実は異なります。でも、犯罪統計というのは、かなり操作できるものであることも、この本は明らかにしています。
 最高裁判所の判決に、次のようなものがあります。
 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的な証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。
 これは、髄液の採取・ペニシリンの注入とけいれん発作による死亡との因果関係が争われた、いわゆる東京ルンバール裁判の判決です。この本は、一見もっともらしい言葉が並んでいるが、言語明瞭・意味不明の最たる文章だとしています。そう言われたら、そうですね。これは、最後は裁判官が証拠を評価して、オレが通常人の代表として判断すると言っているにすぎない。このようにコメントしています。なるほど、ですね。
 窃盗の47%は自転車盗などの乗り物関連。少年刑法犯の7割近くは窃盗と横領。横領のほとんどが遺失物横領。
 1999年から2000年に、暴力的色彩の強い犯罪の認知件数が統計のうえで急増した。これは、警察の対応の変化による。警察が通達を出し、広く国民にキャンペーンして、被害届などを積極的に受理したことによる。
 近年、公判請求の比率は上昇傾向にある。また、3年をこえる刑の言い渡しも増加している。判決の刑期が長期化している。
 新しく受刑する人間は、1948年に最多の7万人。1992年に戦後最低の2万人。2003年は、6万人になった。
 満期で出所する人と、途中で仮出獄する人とでは、再入所率に20%の差がある。なーるほど、ですね。
 日本の死刑についてみると、一審判決で死刑を言い渡される人は、この10年間で最高18人(2002年)、最低1人(1996年)です。そして、死刑を執行される人は、1人から6人までとなっています。
 今どこの刑務所も収容者が満杯になって困っています。これ以上、犯罪に走る人が増えない手だてをみんなで考えるべきです。厳罰に処せばいいという考えは安易すぎます。

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