弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月 2日

藤沢周平、心の風景

著者:藤沢周平、出版社:新潮社
 藤沢周平の故郷であり、映画「蝉しぐれ」などに出てくる海坂藩のモデルとなった山形県鶴岡市は私にとっても思い出深いところです。弁護士になって2年目からだったと思いますが、山形地裁鶴岡支部まで何回も通いました。石油ショックのとき石油元売りメーカーが「千載一遇のチャンス」として闇カルテルを結んで価格をつりあげました。それによって損害を蒙った消費者が元売り各社を訴えたのです。この裁判は東京地裁と山形地裁鶴岡支部に同時に提訴され、私も原告弁護団の末席につらなりました。原告弁護団員としては恥ずかしながら何の貢献もできませんでしたが、あたかも一人前の弁護士のような顔をして毎回の法廷に鶴岡支部にまで通いました。
 当然のことながら前泊します。冬の寒い日に近くの温海(あつみ)温泉に泊まったり、大勢の原告団との打合せに参加し、法廷にのぞみました。
 静かで落ち着いた城下町であること、鶴岡生協が住民をよく組織していること、灯油は温かい地域に住む人間にとって想像できないほど不可欠のものであること、などなどを身にしみて体感しました。
 この灯油裁判は、消費者を敵にまわしたら大変のことになることを石油業界だけでなく、産業界全般に深く自覚させるきっかけとなった大きな意義のある裁判でした。この裁判を通じて、再任拒否された宮本康昭元裁判官や後に国会議員となった岩佐恵美氏と知りあうこともできました。お二人ともエネルギッシュであり、理論的に秀れていて、いつも感嘆していました。
 この本には、藤沢周平の「蝉しぐれ」を傑作とほれこんだ井上ひさしが、小説に出てくる海坂藩の城下町を地図に示したものまで紹介されています。しかも、小説上の矛盾点まで指摘したのは、さすがは井上ひさしです。
 映画「蝉しぐれ」のオープンセットがそのまま残されており、有料で見学できるそうです。ぜひ、また行ってみたいところです。
 私は司法修習生のころ、同期生(今は石巻市で活躍している庄司捷彦弁護士)からすすめられて山本周五郎の本を夢中になって読みふけりました。江戸情緒たっぷりの周五郎ワールドにずんずん身が引かれました。藤沢周平にこのところ熱中しているのは、山田洋次監督の映画の良さにも影響されています。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー