弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年4月12日

ビッグ・ピクチャー

著者:エドワード・J・エプスタイン、出版社:早川書房
 映画大好き人間の私ですので、ハリウッドの内情を知りたいと思って読みました。いろいろ面白い話を知ることができました。ハリウッドは遠くで見たことしかありません。ロサンゼルスのチャイニーズ・タウンの舗道にあるスター手形をなつかしく思い出します。
 映画6大スタジオにとって、映画をつくること自体は、財務的にみると、重要度は低くなっている。封切映画は、いずれも恒常的に欠損を計上している。
 ディズニーの「60セカンズ」の制作費は1億330万ドル。内外の劇場に配給するための費用が2320万ドル(うち、プリント代1300万ドル、保険・輸送料など1020万ドル)、世界規模の広告費6740万ドル。残余料金1260万ドル。つまり、2億650万ドルが経費だった。総売上2億4200万ドル。劇場の取り分は1億3980万ドル。つまり、2億650万ドルかかった映画の代価として、半分以下の1億220万ドルしか回収できなかった。
 1947年にアメリカ全国で47億枚の入場券が売れたのに、2003年には3分の1の15億700万枚しか売れていない。
 2003年にアメリカで封切られた473本の映画のうち、6大スタジオがつくったのは半分以下。そこで、入場券売り上げから得たのは総額32億3000万ドルだった。
 今や、6大スタジオは映画を家庭でみせるライセンス料で利益の大半を稼ぎ出している。それは劇場からの収益の5倍となっている。劇場に貸し出す映画から入ってくる小川のような金の流れに比べ、ビデオ・DVDの販売による売上げは津波規模。
 ビデオ・レンタルの大手1社で年間39億ドルを主要スタジオに支払っていた。ビデオとDVDから6大スタジオが得た年間収益は179億ドルに達していた。
 ほとんどの映画は赤字になるようになっている。「プライベート・ライアン」の出演料としてトム・ハンクスとスピルバーグが3000万ドルずつを受けとったため、この映画の予算は7800万ドルから一挙に1億3800万ドルにふくれあがった。スターの取分は収益の分配ではなく、制作費として扱われた。
 撮影は時間との競争だ。撮影期間中は、日々、膨大な出費が生じる。低予算の映画でも、維持費は1日8万ドル、固定費として5700万ドル。「ターミネーター3」のようなスケールの大きいアクション映画だと、日常の維持費は30万ドル。2000年のハリウッド映画の平均的な日常の維持費は16万5000ドルだった。
 監督自身がすべてのシーンの撮影に立ち会ったり、すべてのロケ地に行く必要はない。主要な俳優が出演しないときにはセカンド・ユニットに撮影させる。同時撮影によって映画の製作作業を大いにはかどらせるのだ。
 スタジオのプロダクションの大半は、撮影を3ヶ月から6ヶ月で終える。
 映画は細切れの断片でできている。CGは生身の俳優全員をあわせたより高くつくことがある。「ターミネーター3」のCG効果のため1990万ドルがつかわれた。
 劇場は封切りの週は入場券の売上高の10%と一律に支払われる劇場手当てを受けとる。スタジオは通常、封切後の2週間は入場料収益の70〜80%を手に入れる。劇場が受けとる割合は、週に10%の割合で増えることが多く、4週から5週目に入ると、入場券売上げのほぼ全額を手に入れる。
 劇場の主たる利益はチケットの売上げやスクリーンの広告ではなく、実は飲食物の販売からあがっている。ポップコーンの塩味を強めると、客はノドが渇いて、それだけ余計にソフトドリンク(利ざやが大きい)がほしくなる。
 トッピングに余分に塩を加えることがマルチコンプレックスのチェーンをうまく運営していく秘訣だと劇場幹部は述べている。
 先日、「シリアナ」という映画を東京で見てきました。ハリウッド映画なのですが、アメリカが中東のアラブ諸国をいかに牛耳っているか、その大きな狙いの一つが石油利権であること、気にくわない指導者はミサイルによるピンポイント攻撃で空から抹殺することなどが映像となっていました。少し前の映画「武器商人」も、アメリカが世界各地に武器を輸出してもうかっている事実を紹介していました。
 ハリウッド映画は、単なるアクション映画だけではないところがすごいと思います。

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