弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月12日

うつ病を体験した精神科医の処方せん

著者:蟻塚亮二、出版社:大月書店
 団塊世代の精神科医です。自らもひどいうつ病にかかり、いっそ死んだほうが楽だと思うような日々が2年ほど続いたそうです。青森県の病院で長く活動してきましたが、今は沖縄に移住しています。沖縄の方が住みやすいのでしょうね。
 うつ病は7人に1人が生涯のうちに1回はかかる病気とのことです。私の親しい弁護士が最近よく眠れないとこぼしていました。夜中に一度目が覚めたら、ずっと眠れず、明け方になって寝入るので、結局、朝は9時まで布団の中にいるというのです。それはきっとうつ病だよ。彼の症状を私から聞いた別の弁護士が即座に診断を下しました。さもありなんです。うつ病の症状のひとつが眠れないということだからです。
 頼まれると断れない性格。仕事にみる精力性・熱中症。これがうつ病に結びつきやすい。
 うつ病は時間をかければ、必ず回復する。著者はこのように断言しています。ただし、治るということの真意は、病気になる前の状態に復することではなくて、肩から力を抜いてもっと楽な生き方に変わることに他ならない。
 うつ病は、家庭や職場、学校などの環境要因と、必要以上にくよくよしたりする性格などが反応しあって発病する。性格だけでうつ病になるのではない。
 身体が、癌の存在をうつ病というサインによって警告することがある。これを癌による警告うつ病という。まだ気づかれていない癌が体内にあるときにうつ気分が持続する。
 末川博博士は色紙にこう書いた。20歳までは他人様に育てられ、20歳から50歳までは他人様のために生きる。50歳を過ぎたら自分のために生きる。
 本当にそのとおりだと私も思います。私も、自分でも信じられませんが、あと3年で還暦を迎えます。ですから、自分のために生きることをますます優先したいと考えています。
 うつ病は心の風邪だと言われることがある。しかし、うつ病のつらさは独特である。悲観的な気分が全身を締めつける。
 切れる刀は折れやすい。
 悲しむ能力こそ真に人間らしい能力だ。
 うつ病になるともっぱら絶対化してしまい、相対化という視点が乏しくなる。
 家庭のなかで習慣化されたものをもっている人の精神衛生は安定している。
 私にとって、それは子どものとき以来の雑巾がけです。家中を雑巾がけすると、すっきりした気分になります。そして、夏でも冬でもシャワーをあびるのです。おかげでめったに風邪をひきません。もっとも、週一回の水泳を続けていますが、これも皮膚を鍛え、心身によいようです。1回30分間、自己流のクロールで1キロ泳ぎます。全身運動ですから、無心に泳ぎながら、全身を点検します。どこか調子が悪いと30分間はとても泳げません。30分のあいだ泳げたら、まだ大丈夫だなと自信がつきます。毎週、人間ドッグに入っているようなものです。
 日曜日に朝寝すると、月曜日によけいに辛くなる。だから、日曜日も早く起きる方がよい。そうなんです。私は1年中、朝は7時に起きることにしています。若いころは、私も日曜日は布団のなかで、いつまでもぐずぐずしていました。でも、今では、日曜日は朝早く布団から出て、さあ今日一日は自分の時間だ、そんな楽しい気分で動きはじめます。
 人はなぜ自殺するのか。この問いに対して、著者は、それは今よりも、もっとよりよく生きたいからだ、と答えています。うーむ、そうなのかー・・・、と思いつつ、この答えがもうひとつよく分からないでいます。もっと深く考えてみる必要があるようです。
 いろいろ考えさせられる、いい本でした。

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