弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月10日

ジーニアス・ファクトリー

著者:ディヴィッド・プロッツ、出版社:早川書房
 ノーベル賞受賞者の精子をもらってわが子を育ててみたい。そんなことを夢見る女性がこの世には少なくないようです。
 妊娠しないので医師に診てもらったら、夫がベトナム戦争で負ったケガのせいだと分かったわ。そんなとき、ドナーが全員ノーベル賞受賞者だという画期的な精子バンクができたって話を聞いたのよ。なんて素晴らしいのかしらと思ったわ。あなたの父親は、ノーベル賞受賞者なのよ。
 母親から、こんな告白を聞いて、子どもは素直に喜べるものなのでしょうか・・・。
 1980年、アメリカはカリフォルニア州に精子バンク「レポジトリー・フオー・ジャーミナル・チョイス」が創設されました。1999年に資金難から閉鎖されるまで、200人以上の子どもがそこから誕生しました。創設者のロバート・グラハムは「10人の賢人は1000人のばかに勝る。人類は知的淘汰によって進化を管理できる」と豪語したそうです。ところが、実際には、ノーベル賞受賞者が高齢であったせいか、その精子を利用した女性は誰ひとり妊娠しませんでした。
 高齢者の精子から生まれた子どもの先天的欠損症のリスクは高いとのことです。遺伝的異常をきたしやすいため、ドナーは40歳以下に限定する精子バンクがほとんどです。
 1988年のアメリカ当局の調査によると、このとき精子バンクは数百軒あり、 1万1000人もの医師が人工授精術を実施していた。年間3万人の子どもが匿名のドナー精子で生まれていたから、既に100万人のドナー・ベイビーが誕生していることになる。
 そして、ドナー・ベイビーは成長してから自分の父親を知りたくなる。このところ、インターネットをつかって精子バンク家族を探し出そうとする試みが増えている。ヤフー・サイトにも2004年には3000人が登録している。探しているのは恋人ではなく、父親や子どもである。これによって血縁者が出会ったのも600件をこえている。
 ところで、刷り込み理論というのがあるそうです。父親側から刷り込まれた遺伝子は、根源的な感情や直感的な行動をつかさどる大脳辺縁系に関わりがちである。つまり、天才児をつくるためのに必要なのは、母親の方なのだ。だから、今や健康的で知的な女性の卵子はいまや垂涎の的で、いかがわしい巨額ビジネスを生んでいる。スマートで若い女子学生なら、健康な卵子を売って、1万ドル、2万ドル、果ては5万ドルの大金を手にできるようになっている。母親側の遺伝子が生まれてくる子どもの知性に関係するという認識が広まれば、この卵子バブルはもっとひどくなるだろう。うむむ、なんということ・・・。
 このグラハムがつくりだした天才児がいました。2歳でコンピューターを操り、5歳でハムレットを読み、IQは180。この天才児は成人してから次のように語りました。
 高いIQをもっているという事実は、ぼくを善人にも幸せにもしなかった。知性が人格をつくるのではない。それを生むのは、愛情ある家庭で愛情ある両親が、子どもに重圧を与えずに育てること。血筋で優れた人間をつくるとは思わない。
 子どものころから人目にさらされてきたことは、彼の人生を大いに歪めたようです。いつも人目にさらされぬいていたから、内気で孤独だった。子どもにとっては、もっと安心できる環境で育つ方がずっとよいのだ。
 なるほど、なるほど、そうなんだー・・・。すごく納得した気分になって最後のページを閉じました。

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