弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月20日

未来をひらく歴史

著者:日中韓3国共通歴史教材委員会、出版社:高文研
 日本と中国、韓国という3ヶ国の研究者と教師が3年間、国際会議を10回も重ね、共同して編集・執筆した近現代史のテキストです。画期的な労作だと思います。
 前事不忘、後世之師
 これは、歴史を忘れずに未来の教訓とするという中国のことわざです。いま、日本では「新しい歴史教科書をつくる会」が全国各地で、日本は侵略戦争なんかしていないという歴史的事実に反する、間違った内容の教科書を子どもたちに押しつけようとしています。でも、日本がしたのは侵略戦争ではなかった、アジアの民衆を欧米列強の植民地支配から解放し、生活向上に役立ったのだということを、中国や韓国に行って、また東南アジアの国々に行って胸をはって主張できると本気で思っているのでしょうか・・・。
 実は、私の父も三井の労務係りとして戦前の朝鮮半島へ人間を駆り出しに出かけたことがあります。強制連行の直前のことでした。あまり悪いことをしたという自覚が父に見られなかったので、不思議に思って尋ねると、当時、あっちには食うものも仕事もなかったので、彼らは日本へ喜んでやってきたというのです。これも、日本政府が当時、朝鮮半島から米を強制的に供出させていたことの結果なのです。そのことも、この本に明らかにされています(71頁)。現象だけをみていると、間違って理解することもあるのです。
 だれでも、楽しくない記憶は早くなくしてしまおうとする傾向がある。気楽に楽しく生きていきたいから。しかし、悪い記憶をなくしてしまうと、また倒れてしまうことがないとは限らない。過去のあやまちを覚えておくと、同じあやまちを犯すという愚かさを避けることができる。そうなのです。
 ところで、日本に流れ着いた朝鮮人漂流民が16世紀末からの270年間に1万人ほどいたそうです。すごい人数です。でも、考えてみれば当然ですよね。それだけ近いわけですから。同じように中国や朝鮮に漂流した日本人もいて、お互いに送還しあっていました。その程度の交流はあったわけです。
 清朝末期の政治家として有名な李鴻章は、生涯にわたって自分は外交の名手であると自負し、多くの重要な外交交渉にあたった。しかし、多くの不平等条約は、彼の手によって調印されたというのが歴史的な事実である。なるほど、そうですよね。
 日本が韓国を併合したのか強占したのか、国際法からみて不法かどうか、日本の学者のなかで結論が出ていないと書かれています。
 1905年の第二次日韓協約(乙巳条約)は強制によるものだという点では理解が共通していても、「併合」以後の35年間に及ぶ植民地支配は国際法からみて不法だという点で韓国の学者は一致しているが、日本では一致をみていないというのです。本当でしょうか・・・。韓国では強制的な占領を意味する「韓国強占」と呼ばれていることを初めて知りました。知らないことは本当に多いものです。
 そして戦後60年近くたった2004年に、韓国政府は、「反民族行為真相糾明特別法」を制定し、親日派の調査に政府として取り組んでいます。つい先日、氏名公表がなされたという報道がありました。まさに親日派とは反民族行為をした存在なのです。このことを私たち日本人はもっと重く受けとめる必要があると思います。
 これは決して自虐史観などという低次元のものではありません。

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