弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月20日

中世ロワール河吟遊

著者:アンドレ・カストロ、出版社:原書房
 この夏、トゥール近くのシャトーホテルに3泊し、ロワール川流域のシャトーを2日間かけてじっくり見てまわりました。フランス語でいうと la vallee de  la Loire といいます。 vallee というのは、一般に谷のことですから、行く前の私のイメージは、川の両岸に山が迫っていて、そそりたつ崖を利用したお城が点々と存在するというものでした。行ってみると、まったく違っていました。私の愛用する仏和大辞典によると、 vallee は普通、川の名とともに用いて平野を流れる大河の流域を言う。その場合は、日本の谷の概念からは遠い。まさに、そのとおりでした。見渡す限り広々とした平野をゆったりと大きなロワール川がたおやかに流れています。崖に立地しているお城(シャトー)はむしろ少なくて、たいていは平地にあるのです。
 夏の暑い陽差しのもと、2日かけて6つのシャトーを観光タクシーで見てまわりました。よく修復され、保存も行き届いている見事なお城です。往時を十分しのぶことができます。さぞかしシャトーの主の貴族たちが優雅な生活をしていたのだろうと想像しましたが、この本を読むと、それは見事に裏切られます。たいていのシャトーは実に陰惨な過去を秘めているのです。
 そもそもロワール河流域は、その昔はフランスの中心部でした。歴代の王が好んで滞在していたのです。それは国境から離れて安全だったことにもよります。ロワール河流域の別名はフランスの庭でした。15世紀にジャンヌ・ダルクが活躍したころ、ロワール河流域のシャトーは栄えていました。16世紀には、プロテスタント派(ユグノー)とカトリック派とに貴族が別れ、お互い見つけ次第に皆殺しするという限りない内戦状態にありました。キリスト教って憎悪の宗教なのかと、ついつい思ってしまいます・・・。
 スペインのフェリペ2世の無敵艦隊がフランスの海岸をゆっくりと遊戈していた。狙いはイングランドのエリザベス女王。しかし、フランスにとってもこれは脅威であった。カトリック派の貴族の首領でもあったギーズ公はフランス王アンリ3世にとって脅威であった。ギーズ公はブロワ城に三部会を招集することをアンリ3世に要求した。3部会ではギーズ公派の方が多く、国王派は全議席の4分の1も占めていなかった。
 ついにアンリ3世はギーズ公の暗殺を決意する。ブロワ城のなかの隠れ小部屋に45人隊を引きこみ、ギーズ公が1人になるように仕掛けたところを一気に襲いかかった。そして、弟のギーズ枢機卿も引き続き暗殺された。2人の死体は切り刻まれ、焼かれ、灰はロワール河に投げこまれた。
 うーん、実に凄惨な情景です。今もブロワ城に行くと、その部屋はあり、ギーズ公が暗殺される場面を描いた大きな油絵がかかっています。
 シャンボール城にも行きました。狩猟のためにつくられたという広大かつ華麗・荘厳なお城です。17世紀後半、ルイ14世の宮廷はシャンポール城にあったようなものでした。昼間は狩猟、夜は舞踏会と賭博でときを過ごすのです。
 私がまわったのは1日目がシュノンソー、シャンボール、ブロワ、アンボワーズ、2日目がヴィランドリーとアゼル・リドーです。シャトーめぐりも疲れるものではありました。
 シュノンソーは、川にまたがるお城として有名ですが、さすが別名「6人の奥方のお城」と呼ばれるだけあって、その優雅さは現地に立って見ても、なるほどとうなずかせるだけのものがありました。アンボワーズ城の近くにレオナルド・ダビンチの博物館があって、そこも見てきました。ここでレオナルド・ダビンチが晩年を過ごしたのですね。知りませんでした。てっきりイタリアで死んだとばかり思っていました。
 意外と良かったのがヴィランドリーです。花と野菜の庭園があり池もあって、庭が幾何学的に配置されて見事で、お城とほどよく調和していました。毎日の管理・手入れが大変だろうな。休日ガーデニングにいそしむ私は心配になったほどです。
 泊まったシャトーホテルは東京の酒井弁護士の紹介でした。広大な森のなかにある貴族の館です。日本人の団体客(といっても10人ほど)が夜7時に到着し、朝8時半には出発していきました。シャンデリアの輝く食堂で夕食をとったくらいで、シャトーホテルの周辺の森をゆっくり散策する時間がなかったのが気の毒でした。
 私も、20年ほど前にドイツの黒い森(シュバルツバルト)の森のなかの保養地(有名なバーデンバーデンの近く)に1泊したことがあります。例によって夜遅く着いて、朝早くの出発です。ドイツ人の老夫婦たちが食事のあと楽しそうにダンスをしていました。何泊するのかと訊かれて、1泊するだけと答えると、目を丸くして驚かれてしまいました。こんな保養地に来て、たった1泊とは・・・。だから、私は今回は3泊してみたのでした。やっぱり3泊すると、ゆったりして心地よい気分をたっぷり味わえました。

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